東急建設は、東京都市大学・西村功教授と共同で、油圧ダンパー(制震)と積層ゴム支承(免震)を組み合わせたハイブリッド構造の実用化に向けた実証実験を行い、従来のパッシブ型制震構造を上回る性能を確認した。2020年を目標に実際の建物へ適用し、社会実装に向けた取組みを加速させる。
「部分免震構造」を発明した東京都市大学 工学部 建築学科・西村教授と東急建設 技術研究所の研究チームは2018年9月3日、免震と制震の新型ハイブリッド構造を実在建物の約4分の1スケールモデルに用いて、振動台公開実験を行い、従来のパッシブ型制震構造を大きく上回る性能があったことを実証したと公表した。
新型ハイブリッド制震構造は、制震構造の主要部材「減衰装置(油圧ダンパー)」と、鋼板とゴムを重ね合わせて製造した免震構造の構造部材である「積層ゴム支承」を組み合わせた新開発の制震構造。従来のパッシブ型の制震構造が有する減衰性を大幅に上回る性能を発揮する。
これまで建築振動工学の分野では、油圧ダンパーをはじめとする減衰装置を建物各層に設置することで、比較的容易に減衰性能が発揮されると考えられてきた。
だが、構造モニタリング技術の発達で、地震観測の生データが取得できるようになると、層間型のパッシブ制震構造では、設計で想定している減衰性能が十分に発揮されない事実が明らかになってきている。
西村教授の研究室では、独自の振動理論を構築し、建築架構の減衰率と振動数は、別々に変化するのではなく、一定の関係を有していることを解き明かした。この結果、高い減衰性能を発揮して地震時の構造的な損傷を低減するには、大きな振動数の変化が必要になることも判明。これを踏まえて、研究開発した構造形式を「部分免震構造」として特許登録した。
研究室では部分免震構造の振動台実験で、小型の模型を用いて行い、減衰性能は学術的には検証されていた。今回、2018年8月31日に実施した地震波加振実験では、神奈川県相模原市の東急建設技術研究所で、実在建物の約4分の1スケールモデルを使用して、大型振動台で過去の代表的な被害地震3種類の地震波を加えてテスト。結果、振動制御理論の理論値と実験結果が一致することが分かり、積層ゴム支承と油圧ダンパーのハイブリッド構造で、比較的簡便に大きな振動数の変化と高い減衰性能を実現できることが証明された。
新型ハイブリッド制震構造は、パッシブ型制震構造に比べ、約2倍の地震動に対応するため、設計で想定した制震性能を発揮することが難しかった“中低層建築物”の合理的な制震構造システムとして、導入が期待される。中低層の公共施設のなかでも、災害時の防災拠点となる病院や小・中学校、消防署などに採用されれば、確実な防災・減災につながる。
また、工期・コスト面がネックとなり、地震対策が困難な既存不適格のビルでも、経済的かつ高性能な制震補強技術として適用されることも見込まれる。
西村研究室では、積層ゴムメーカー、建設会社、構造設計事務所、研究機関などから成る研究会「淡広会(たんこうかい)」を設置し、研究開発を進めている。東急建設を含めたこの会を通して、共同研究の成果を活用し、2020年度をめどに新型ハイブリッド制震構造の適用を目指すという。
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