電通が毎年発表している「日本の広告費」をみると、“屋外広告”は横ばい。だが注意する必要があるのは、このデータには、広告の製作費も含まれている。ここ数年、顕著だったネオン看板からLEDまたはビジョンへの掛け替えにかかる施工費などが、全体を底上げしている可能性がある。そのため、若干減少傾向にあると捉えるのが正確な傾向になるだろう。
デジタル化に関しては、駅構内などの交通広告であれば歩行者の目線位置に掲出できるメリットがあるが、屋外ではロケーションが限られる。渋谷のスクランブル交差点や特殊性のある秋葉原は、アナログ・デジタルに関わらず人気スポットだが、それ以外のエリアでは苦戦している印象。交通広告に限れば2020年には山手線の全車両が新型車両に入れ替わることも踏まえ、駅や車両メディアのデジタル化は進むが、広告費全体では紙ベースが減るために相殺されてしまう予想だ。
ダイナミックDOOHの試みは、注目を集め、話題にもなっている。複数の大型ビジョンを連動させて広告を流すシステム自体は、スポーツの街頭観戦などのパブリックビューイング同様に、既に出来上がっているので、要望さえあれば展開することは可能だ。しかし、実際にはダイナミックDOOHに適した商品種類はある程度限定されているため、幅広い業種のクライアントを抱える代理店でなければ対応できない。
媒体の数を考えると、新規の開発がほぼ無くなった。1988年から増加し、大型の広告展開を行っていた「たばこ広告」は当時、物件を押さえ、ピークの1990年代半ばには、JTとフィリップモリスを合わせて全国で約1000基あったと推察される。JTと資本提携する前のR.J.レイノルズ・タバコ・カンパニーも含めると、相当数が動いていた計算になる。
その後の1995年から始まった屋外広告に対するたばこ広告の規制に伴い、徐々に媒体は減った。今は一等地の見栄えの良い媒体のみが動いている印象だが、空き媒体のまま躯体だけが撤去されずに残っているものも多い。
媒体料金も、たばこ会社が媒体を押さえて、価格が上昇した時期に比べて、3割ほど値下がりしたと思われる。屋外広告の世界では、定価というものは存在しない。ビルオーナーごと、看板ごとに価格が設定され、地価では銀座が最高値だが、屋外広告の価値は渋谷の方が高い場合もある。
短期媒体の契約形態も、年間で媒体を押さえているのはわずかで、リースボードが多くなってきている。銀座の三愛ドリームセンターも、媒体ではなく、2014年からビルを保有するリコーに変わったように、第三者の広告を掲出する“媒体”から、本社の入るビルに掲げるインナー対策としての“自家用”へと姿を変えたものも少なくはない。
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