米スタンフォード大学は、特殊な光学面を持つことで放射冷却を利用する冷却システムを開発、試験している。このシステムは、冷却機構に電力を使用せず、既存の空調や冷凍機に接続することができる。この装置の導入により一般的な商業ビルでは、消費電力を約2割削減が可能になるという。
米スタンフォード大学のShanhui Fan氏らの研究グループは2017年9月、放射冷却現象を利用した電力を用いない冷却装置を開発、試験していると報告した。既存の空調や冷凍機に接続が可能で、一般的な商業ビルではシステムの導入により、消費電力を18〜50%程度削減できるとする。なお、この成果は2017年9月に刊行されたNature Energy誌に掲載されている。
放射冷却を利用した冷却機構は、以前より各所で提案されている。この冷却機構は大気や宇宙空間へ熱放射を行うために、冷却面の天頂に屋根などの遮蔽物が設置できない。よって従来技術では日中は冷却効果よりも日射による受熱が大きくなるため、冷却は夜間に限られる問題があった。この問題により、空調需要が最も旺盛な日中時間に従来技術は対応できなかったという。
今回開発された冷却システムは、2014年に同グループが発表した特殊な光学面を持つ鏡が重要な役割を果たしている。これによって、システムに入射する日光を反射しつつも同時にシステムから外部への熱放射が可能となり、従来技術では困難だった日中時間の冷却を達成した。直射日光下でも、システム内部を流れる冷媒を外気温度以下に冷却する。
本研究の共同研究者であるEli Goldstein氏は「この技術によって、私たちはもはや周囲空気温度が何度であろうと(冷却に)制約を受けることはなく、もっと冷たい物質である上空や宇宙空間が制約になる。」と語る。
今回開発された冷却システムは、
の両立が要となる。これは、キルヒホフ則によって導かれる熱放射と熱吸収の関係によって、全ての波長域でシステムが熱放射を行う設計にすると、日中では太陽および大気からシステムへ強い受熱が発生するためだ。よって、システムが大気へ熱放射する波長を「大気の窓」である8〜13μmに限定し、その他の波長光をほぼ全て反射する必要があるという。
上記を達成するため、研究チームは2014年に"Photonic radiative cooler"を開発。これは、シリコンウェハーの基板に下から、融着層となるTi(チタン)、Ag(銀)、HfO2(酸化ハフニウム)とSiO2(二酸化ケイ素)の交互7層が重なる構造となっている。HfO2とSiO2の持つ光学的な材料特性を組み合わせ、それぞれの層の厚みも、数値最適化を実施したという。[発表論文]
このPhotonic radiative coolerは、太陽光スペクトル域では放射率がほぼ0に近い値となるが、8〜13μmの波長域では放射率が0.5〜0.9程度になることが実験により明らかにされた。この結果により研究チームは、入射日光の反射と、8〜13μmでの熱放射による冷却機能が両立できることを確認したという。
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