炭素繊維の“より糸”で耐震補強、その利点とは省エネビル(1/2 ページ)

小松精練は同社が開発したロープ状の炭素繊維複合材が、耐震補強材としてJIS化される見通しであると発表した。炭素繊維の製品規格がJIS化されるのは国内初。強度と軽量性を併せ持つ利点から、自動車や航空機分野で利用が広がっている炭素繊維複合材。同社は国内初のJIS化を追い風に、建築分野での導入拡大を目指す。

» 2017年08月02日 06時00分 公開
[陰山遼将BUILT]

 合成繊維・フィルムなどの素材開発・製造販売を手掛ける小松精練(石川県美能市)は2017年7月、金沢工業大学と共同開発した炭素繊維複合材「カボコーマ・ストランドロッド」が、2018年中をめどに耐震補強材としてJIS(日本工業規格)化される見通しであると発表した。炭素繊維複合材の製品規格がJIS化されるのは国内初。同社ではこれを追い風に、耐震補強への炭素繊維複合材の利用が拡大すると見込み、2020年に耐震補強材市場のシェア10%獲得を目指す方針だ。

 カボコーマ・ストランドロッドは炭素繊維の芯をガラス繊維などで編み込むように覆った7本の束を、熱可塑性樹脂に含浸(がんしん)させている。炭素繊維強化樹脂(CFRP)の一種で、7本の束に“より”を加えることで、曲げ強度を高めている。

「カボコーマ・ストランドロッド」(クリックで拡大) 出典:小松精練

 CFRPは航空機や自動車分野などで採用が広がりつつある注目の素材だ。高い強度を持ちながら、軽量であるという特性が、自動車や航空機など、高いエネルギー効率を求める輸送分野の製品に適している。カーボコマ・ストランドロッドも比重が鉄の約4分の1と軽く、引張強度も5倍以上高い。直径9.3mmのタイプの場合、1m当たりの重量は約88g、破断荷重80kN、破断強度1510MPa、弾性係数85GPaである。

「カボコーマ・ストランドロッド」の概要(クリックで拡大) 出典:小松精練
軽量なため、200m巻でも歩いて持ち運べる 出典:小松精練

 この他、耐塩水性、耐酸性、耐アルカリ性があり、耐久性にも優れる。鋼材のようにサビることもなく、導電性が高いため結露しないなどのメリットもある。柔軟性もあるため、ロール状態で施行現場に持ち込むことが可能だ。

 現行の建築基準法において炭素繊維は指定建築材料に指定されていないため、建造物の柱・梁(はり)・土台部分などに使用する構造材としての使用は認められていない。ただし、耐震改修促進法において、増床に該当しない場合は耐震補強材としての利用が可能だ。既にゼネコンなどを中心に、炭素繊維シートを利用した耐震補強工法も登場している。

 しかし、これまでにJIS化など、耐震補強材として炭素繊維の性能に関する標準化は行われていない。そのため「顧客にメリットを説明しても、信頼性を不安視さてれしまうこともあった」(小松精練 取締役 技術開発本部長 奥谷晃宏氏)という。そこで同社ではJIS化に向けて、自社施設の耐震補強にカボコーマ・ストランドロッドを利用するなど、施工実績を積み重ねてきた。

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