中性子でインフラを非破壊検査、適用範囲を広げる新手法情報化施工(1/2 ページ)

理化学研究所などの研究グループは、中性子を利用しコンクリート内部の損傷などを検知する非破壊検査の新手法を開発した。従来のように対象物を検出器と中性子源で挟み込む必要がないのが特徴で、橋だけでなく空港の滑走路やトンネル壁の非破壊検査に適用できるという。

» 2016年11月11日 06時00分 公開
[陰山遼将BUILT]

 理化学研究所(理研) 光量子工学研究領域 中性子ビーム技術開発チームの大竹淑恵チームリーダー、土木研究所 構造物メンテナンス研究センターの石田雅博上席研究員らの共同研究チームは2016年11月1日、中性子を利用したコンクリートの非破壊検査法を開発したと発表した。インフラ構造物を中性子の照射装置と検出器で挟み込まずに検査が行えるのが特徴のシステムで、道路橋の床版、空港の滑走路、トンネル壁などさまざまな対象に適用できるという。

 橋の床版や空港の滑走路などはコンクリート表面にアスファルト舗装が敷設されている。そのため舗装面下で劣化が進行していても、内部損傷が発見されるのは更新が必要なほど進行してからという場合も多い。このような舗装面下で起こる劣化は利用者による動的荷重(疲労)に、降雨による水の影響が加わることでさらに進行する。その結果、床版ではコンクリート上面の層状の水平ひび割れや土砂化の発生、コンクリート塊が抜け落ちるといった事例も報告されている。

 空港舗装においては、コンクリートとアスファルト層間の空隙(くうげき)の水蒸気圧が高まる「ブリスタリング現象」など、局所的かつ突発的な損傷の検知が課題となっている。第三者被害を防ぐためにも、こうしたインフラ構造物の予防保全やメンテナンスが求められる中、作業の効率化を図る方法の1つとして、舗装面下で進行するコンクリートの劣化状況を路面側から検知できる非破壊検査の開発が進んでいる。

 共同研究チームは以前からインフラ構造物の非破壊検査手法として、中性子を利用する技術の研究開発を進めてきた。中性子はシリコンやカルシウムなどの元素を多く含む媒体に対する透過力が高く、比較的深部まで入り込むことができる。同時に水素、リチウム、ホウ素といった軽元素に対しての相互作用が強く、水や有機物などに感度が高いといった利点もある。こうした特性から舗装面のアスファルトを透過して、コンクリート内の水分の有無や分布を測定するのに適しているというわけだ。

 しかし従来想定していた透過中性子による測定では、レントゲン撮影のように中性子の発生装置と検出器で対象物を挟み込む必要があった。そのため利用可能な対象物は地面と接しておらず、装置の設置スペースを確保できる橋などに限られていた(図1)。そこで研究チームは、検出器を中性子源と測定対象の間に設置し、後方散乱中性子を用いて測定する手法の開発を目指した(図2)。入射した中性子が検出器に戻ってくるまでの時間と量の変化を計測することで、コンクリート内の水分や空洞の分布を観察する。

図1 中性子による橋の非破壊検査法のイメージ 出典:理化学研究所
図2 透過中性子と後方散乱中性子による測定法の違いを示したイメージ。透過中性子を用いる測定では、測定対象を透過した中性子を検出する必要があるため、測定対象を中性子源と検出器で挟む必要がある(a)。後方散乱中性子を用いる測定では測定対象の後方に散乱(反射)する中性子を検出するため、中性子源と検出器で測定対象を挟む必要はなくなる 出典:理化学研究所
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