HMDによるVRは「ハコスコ」や「ルクラス」のように中には1眼用のものもありますが、通常は2眼の物が主流です(図2)。「ということは2眼の場合は立体視なの?」と思うわけですが、実は2Dによる、“なんちゃって立体視”のケースが多くあります。特に実写での3D全天周撮影は、その天地極においてはローテート(回転)するので、立体での撮影は一般的には不可能です。
天地付きの実写で360度全天周がみられるものは2D映像であるといってよいでしょう(あるいは天地だけ2D)。例えばYoutubeの360度機能がそれです。2D撮影した360度映像をアップロードし、スマホでYoutubeアプリを介して見ると、下記の図3に示すように、左右にスプリットされた2眼の映像を見ることができます。これをビュワーにセットすれば立体的?に見えるという寸法です。これは1つの素材から、見ている位置を少しずらして見る、なんちゃって3Dにすぎません。
両眼の視差がないので実際の立体映像とは異なります。ただ左右で多少異なる映像を見ることになるので、一般的には立体映像と思われています。一方Youtubeには3D表示の機能もあるので360度機能とこの3D機能を組み合わせることで、左右で視差のある別々の映像を360度全周映像(天地は2D)として見ることも可能です。これら、なんちゃって3D映像は実際の3D映像と比べると奥行情報が欠落しているので、平面的に見えるのですが、左右に分かれた2眼ビューアでみると立体映像と錯覚してしまいます。
この方法であれば、少なくとも立体視に関する知識がなくとも、なんちゃって3Dコンテンツを制作することができ、立体視の撮影に関する制約を取りはらう効果が期待できます。 ただし、制作自体は通常の2D制作でよいのですが、表示に関しては2眼となるため、瞳孔間距離の調整や水平垂直が正しく調整されている必要があります。
また、映像自体のガイドライン(映像酔いなど)は守らなければなりません。これはHMD以外のVRとして今後期待されるシアター型や1眼のVRでも同様です。シアター型であればHMDも不要なので、映像のガイドラインまでを守ればよいことになり、年齢制限もなくなります。実写コンテンツ制作者の方はこのことを理解した上で積極的になんちゃって3Dを利用してビジネスを広げることができます。ただ、ゲームやリアルCGベースのコンテンツの場合で、本物の3D立体視経験を提供するには、正しい立体視の知識が必要となります。
前述の例は、実写でのVRビデオに関することを主に述べましたが、例えば建築や土木で用いられるフルCGでのリアルタイムレンダリングの場合はどうでしょうか?
3D CGで2眼表示させる場合(立体視)は、VRソフト上の仮想空間内に2台のカメラを配置し、実際に撮影するように映像化していきます。このカメラの設定と見る時に表示させる方法が視聴者の瞳孔間距離に合わせられること、および極端な飛び出しや奥行き時の視差が大きすぎないように注意することがポイントとなります。
日本SGI(株)のデジタルサイネージ、コンテンツサービス担当部長を経て、2010年にアンビエントメディアを設立、デジタルサイネージの媒体開発、3D映像の制作プロデュース、プロジェクションマッピングのプロデュースなどを手掛け、現在に至る。フォーラムエイト 非常勤顧問、アンビエントメディア 代表も努め、著書に『3D 技術が一番わかる』(技術評論社)、『3D マーケティングがビジネスを変える』(翔泳社) などがある。
【お知らせ】筆者が非常勤顧問を務めるフォーラムエイト主催のイベント「第10回FORUM8デザインフェスティバル2016」が2016年11月16〜18日に開催されます。同時開催される「第9回国際VRシンポジウム」においては、建築土木、都市計画分野におけるVR活用について、さまざまな発表が行われる予定です。ぜひご参加下さい。
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