大林組は2014年4月、東京都にある技術研究所で、国内初の「ソースZEB」を実現するための工事を完了したと発表した。ソースZEBは、一般的なゼロエネルギービルよりもさらに進んだ取り組み。土木建築にかかわる全てのエネルギーを0にしようとする同社のマイルストーンの1つである。
大林組は2014年4月、建物が消費するエネルギーを自ら作り出す、国内初の工事を完了したと発表した。運用中の「大林組技術研究所」(東京都清瀬市、図1)の本館テクノステーション(図2)に「ソースZEB」を実現するための工事を施したものだ。
ZEBとはゼロエネルギービルのこと。建物が年間に消費する一次エネルギー、これと同じ量のエネルギーを建物が生み出すことで、エネルギーの収支を0にする建物を指す。
ZEBは建設業界全体が取り組むテーマだ*1)。2010年には経済産業省が「エネルギー基本計画」を発表、ここでZEB化の方針が固まった。同計画では「ビル等の建築物については、2020年までに新築公共建築物等でZEBを実現し、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現することを目指す」とある。
この流れは先進国に共通したものだ。米国では2007年に定められた「エネルギー自立安全保障法」で「Net-Zero Energy Commercial Building Initiative」を定めている。日本よりもさらに長期的な計画であり、2030年までに全ての新築業務用ビルをZEB化するための技術や政策を立ち上げる。2040年には全ての業務用ビルの50%をZEB化、2050年には100%のZEB化を狙う。欧州や英国にも時期や比率は異なるもの同様の取り組みがある。
*1) 国内では戸建て住宅などでゼロエネルギーが実現しつつある。従来スマートハウスと呼ばれていた住宅をさらに効率化し、ゼロエネルギーハウス(ZEH)として各社が商品化している(関連記事)。オフィスは住宅よりもエネルギー消費量が大きい。さらに建物が大きくなるほどゼロエネルギー化が難しくなる性質がある。ZEHよりもZEBの方が難易度は高い。
大林組が今回取り組むソースZEBは、ここまでに紹介してきたZEBよりもさらに実現が困難だ。ZEBでは消費エネルギーと同じ量のエネルギーを生産すればよい。ソースZEBでは建物「運用時」の一次エネルギー消費量が対象になる。諸外国の一般的な定義では建物へ一次エネルギーを輸送するために必要なエネルギーや、エネルギーを電力に変換する際のロスも計算に入っている。つまり、ソースZEBでは建物が生産するエネルギーはZEBよりも増える。
ソースZEBを実現するには徹底した省エネ、それも人手を介さない、建物自体に組み込まれた省エネの仕組みが必要だ。
大林組のテクノステーションは、ソースZEB化に取り組む以前から、東京都の基準ビルを比較するとかなりの省エネビルになっている(図3)。図3の左端にある基準ビルは延べ床の単位面積当たり年間2577MJ*2)のエネルギーを消費している。テクノステーションは当初からさまざまな省エネ策が組み込まれており、その後も改善を重ねてきたため、2013年度の一次エネルギー消費量(緑)は基準ビルの46%にすぎない。このとき、消費量の約4分の1を再生可能エネルギー(白)が担っているため、実質的な消費量は34%まで下がる。なお黄色の棒は年間の一次エネルギー収支を表している。
ソースZEB化を終えた後、2014年度の計画値を見ると、再生可能エネルギーが大幅に増える。消費量よりも生産量が増える見込みだ。「余剰分のエネルギーは約100MJになる見込みだ」(大林組)。多数の人々が常時活動するような大規模な建物で本格的なソースZEBが達成できれば、国内初の事例になるという。
テクノステーションには常時約200人の研究者が活動している。海外でソースZEBに成功したといわれている事例は、大林組によれば使用期間が限定されていたり、利用者が少ない小規模な建物がほとんどなのだという。
*2) 世界の一次エネルギーの90%以上は各種の化石燃料が占める。燃料によって単位となる量も熱量も異なるため、MJ(メガジュール)という単位を用いて統一して扱う。エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)によれば、1L当たり、灯油が持つエネルギーは36.7MJ、A重油は39.1MJ。都市ガス(13A)は1m3当たり46.1MJ、液化石油ガス(LPG)は1kg当たり50.2MJだ。昼間電力は1kWh当たり9.97MJとして扱う。
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