本連載では、FMとデジタル情報に軸足を置き、建物/施設の運営や維持管理分野でのデジタル情報の活用について、JFMAの「BIM・FM研究部会」に所属する部会員が交代で執筆していく。今回は、アイスクウェアド 石坂貴勲氏が研究所の新築工事で、維持管理BIMの要件策定を実践した経験から得たFM領域で使えるBIM作成の秘訣を解説する。
私がこれまで取り組んだBIM関連のプロジェクトで感じていることがある。それは、維持管理でBIMが有効との認知がまだまだ広がっていないということだ。
このことはある意味当然だと思う。当社アイスクウェアドは海外のFMベンダーやファシリティマネジャーと話をする機会が多いが、海外でもFMの現場では、まだまだBIMの活用については聞こえてこない。FMにBIMを活用しようというベンダー側の働きかけはあるものの、機運は盛り上がっていないというのが正直な印象である。
いくつか理由が考えられる。その一つは、BIMが分かるファシリティマネジャーが少ない(もしくはFMが分かるBIM技術者が少ない)。また、FMの中でBIMを活用できる範囲が限られていると考えられている上に、コロナ禍以降に急速に進んだ働き方の変化への対応に追われ、BIM活用の優先順位が相対的に低い。さらに、既存建物をBIM化するために必要なコストを考慮すると、経済合理性が見出せないなどが挙げられる。
それぞれに対応策を考えていく必要があるが、私が喫緊の課題だと考えている事は一番に挙げたファシリティマネジャーのBIMに関する知識が不足している点だ。ファシリティマネジャーは建築やFMの知識や経験と、BIMやITという新しい技術を理解し、課題を解決策に結び付けることが求められる(これこそ私がBIM・FM研究部会に入会した理由でもある)。
これまで携わったプロジェクトでも、維持管理BIMの要件を洗い出し、施主側がこれなら運用で使えそうだと納得を得るまでには苦労が絶えなかったが、得るものも多かった。 経験上、BIM中心に考えるよりは、業務効率の改善や課題解決を中心に据えて検討を進めた方が合意を得やすい。プロジェクトではFM基本方針を策定し、ブリーフィングを経て、想定される施設運営上の課題や問題点の抽出とその対策を検討する。当社では維持管理BIMに施主の要望を正しく反映させるために、FMで通常行われているプロセスに沿って、維持管理運営上の課題を施主側の維持管理担当者と一緒に考え、課題によっては、BIMやITシステムで解決し得ることを伝え、要求仕様をまとめるスタイルをとっている。その例の一部を紹介したい。
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