建設DX実現までの指標となる“変革レベル”と、可能性を秘める生成AI【最終回】建設ICTで切り拓く、現場の安全衛生と生産性の向上(7)(3/3 ページ)

» 2024年11月28日 10時00分 公開
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 (1)営業業務におけるボリュームスタディーの効率化

 生成AIを活用して建築デザインを作成し、設計士やプランナーの業務を効率化することができます。生成AIは、瞬時に何パターンものデザインを生成することができ、クライアントの要求にマッチした提案がしやすくなるため、営業コストの削減が期待できます。このユースケースに関しては、既に製品化やサービス化されているものも登場していますので、活用されている方もいるのではないでしょうか。

 (2)教育コンテンツの拡充

 人材不足といわれる建設業界で、若年層技術者の育成は重要な課題です。熟練管理者にとっても、次々と新しい建設技術や手法が投入されるため、知識習得の継続が求められます。対応する教育コンテンツの拡充や展開は、時間も労力もかかります。こうした課題を、生成AIで解決をしようというケースです。

 例えば若年層技術者には、管理者に代わってチャットボット(Chatbot)が疑問や質問の受け答えを対応します。利用者は、簡潔にまとめられた回答を得られますし、管理者の負担も大きく軽減します。

 さらに、社内に蓄積されている教育データやチャットボットによる質問対応結果を対象に生成AIを活用すれば、勤続年数や所属部署、工種による最適な教育コンテンツの選出やFAQの生成が可能です。自社で蓄積したデータを基にしていますので、質問の傾向などから自社の技術的な課題を把握することにもなります。

 (3)事務作業(書類作成)の自動化

 ユーザーの業務の悩みを聞くたびに感じるのが、現場事務作業における書類作成の負担の重さです。工事記録のための写真撮影とその整理、行政向けの書類作成、発注書類、業者や顧客との打合せ資料、労働安全衛生に関する書類、日報や月報などの報告書……。書き出すと切りがありません。現場で作成できない帳票は、事務所に持ち帰っての作業となりますが、かなりの負担です。

 こうした課題に対しては、蓄積された帳票データから生成AIを活用することで、帳票を自動作成できると考えています。細部は人による確認や修正が必要となりますが、帳票作成の負荷を大きく軽減できるのではないでしょうか?地味ではありますが、事務作業(書類作成)の自動化は、現場管理の方からすると一番期待される生成AI活用かもしれません。

 上記は、生成AIの活用をベースとしたものですが、さらに高度なAIを使うことで工事計画の最適化といったテーマにも活用できるのではないかと考えています。ベテランの管理者でなければ作成が難しい工事計画を、工事フローや資材調達のパターンを分析して最適な工事計画をシミュレーションする……といったことが実現できれば、人材不足や人材育成に対して大きな成果を上げることができるでしょう。

 AIの効果を最大限に引き出すためには、高品質で整合性のあるデータが必要とされています。建設業界は他業界に比べICT導入が遅れたこともあり、AIの活用では、過去の工事計画データの収集や標準化に対応したデータ整備が最大の壁といえるかもしれません。

建設業界での生成AI活用では、データの収集や整備がカギに 建設業界での生成AI活用では、データの収集や整備がカギに Photo by Pixabay

建設業の明るい未来へ

 本連載は、「建設現場における安全衛生と生産性の向上をICTでどう実現していくか」のテーマで書き始めました。当初は、AIに関連する内容を採り上げる予定はありませんでしたが、最終回を執筆するにあたって触れないわけにはいかないだろうと思い直し、執筆させていただきました。私自身、2年前の第1回執筆時にはAIと関わることになるとは思っていませんでしたが、現在、生成AIを活用したPoCに参画しており、建設業界の生成AI活用に関して強い可能性を感じています。

 建設DXの推進は、ICTの積極的な導入と利用により、建設業界に多くの可能性をもたらします。効率的で生産性の高い現場を実現することで、課題となっている働き方改革をクリアし、その先には労働者不足や熟練者の高齢化といった課題の解決にもつながっていくはずです。

 今後、AIやビッグデータの活用による革新的なソリューションが生まれ、若い世代や多様な人材が建設業界に参入することで、業界のさらなる活性化が実現することを期待しています。当社のようなICT企業がお手伝いできることは、まだまだ沢山あります。ともに、明るい未来を目指していきましょう。

著者Profile

齋藤 卓磨/Takuma Saitou

日立ソリューションズ フィールドソリューション部 グループマネージャ。

2012年に日立ソリューションズに入社し、空間情報分野のビジネスに従事し、GISのシステムエンジニアとして、インド政府機関との空間情報活用プロジェクトを担当。2018年には日立ソリューションズインドに赴任し、研究開発拠点の立ち上げやアジア向け新規事業創出に携わる。2020年からは、日本国内で建設会社との協創による新サービスの企画・開発に参画。建設業向けにICTを活用し、現場の安全性や生産性向上を支援する「建設業向けソリューション」の強化に向けて活動中。

連載バックナンバー:建設ICTで切り拓く、現場の安全衛生と生産性の向上

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