directへの情報配信は、気象予測のチャットbotを利用して行う。雨量や風速、暑さ指数などで注意が必要な予測結果があれば、1日3回(7時、10時、16時半)の定時配信で通知する。さらに、高所作業やコンクリート打設など、それぞれの作業に応じて設定した閾値を超える予測が出た場合は、定時配信を待たずに随時情報を伝達する。雨が降る時間や量などの情報は、テキストとグラフ、雲の流れの動画の3つをワンセットで、directのタイムライン上に送信する。
予測した気象情報をそのまま提供するだけでは「建設現場向け」とはいえない。今回開発中のサービスの特徴の1つが、天候の情報に加えて、現場で必要なアクションを警告内容として伝えることだ。
例えば設定した雨量の閾値を超える予測を検知した場合、排水設備の見直し、コンクリート打設日の延期、雨養生の確認といった具体的な対応を提示する。強風が予測される場合は飛散防止対策やクレーン作業中止の判断、雷が予測される場合はクレーン作業や高所作業の中止を促す。事前の注意喚起や作業計画の変更を呼び掛けることで、品質の低下や事故のリスクを低減する。
送信するメッセージも「見やすさ」にこだわったという。テキストは必要な情報だけを端的に伝える内容にとどめ、雨量や風速は数値で伝えるだけでなく、強さのレベルを星マークの多さで表現している。受け取る情報の種類も、予報対象や作業ごとに選択できるようにした。コンクリート打設が終了した現場であれば、以降はコンクリートに関する気象情報を受け取らないよう設定できる。雨の情報だけ、暑さの情報だけがほしいといった、ユーザーの個別の要望に対応し、実用性を高めた。
大阪ガスは2008年から、独自に気象予測に関する技術開発を進めてきた。天候に左右されるエネルギーの需要予測を目的としたもので、現在では気象会社と同等の技術を保有し、自社で高解像度のシミュレーション、気象予測の計算も行っている。精度は通常で2キロ四方、最小ケースでは数百メートル四方の細かいメッシュで予測が可能だ。
今回の実証実験では、気象予測の精度をより高めるため、実証開始の1年ほど前から大林組の工区に気象計を設置して現地の気象データを取得した。気象庁が公開する広域の気象情報に加え、気象計が取得した情報をAIに学習させることで、予測地点特有の現象を考慮した気象予測を実現している。
開発中のサービスの強みは気象予測の精度だけではないという。大阪ガスの高谷氏は「建設現場を熟知した大林組との共同開発を進めることで、実用的でより使いやすいサービスを作り上げることが可能だ。工種によって気象情報の閾値の設定を調整したり、提供のタイミングを変更したり、『こんな情報がほしい』といった現場の要望も反映している。建設現場で働く人により便利なサービスへと改善を重ねていけるのが強みだ」と強調する。
では、実際の現場からの反応はどうだったのか。両社では2024年5月後半〜6月中旬にかけて、実証実験の対象である6工事現場のdirectユーザーにアンケート調査を行った。調査によると、建設工事現場では天候の変化により、工程の調整や当日の工事内容の修正、これに伴う資材や労務の手配、品質や安全管理など、実際にさまざまな業務で負担が生じていることが分かった。
実証実験中の気象予測については約9割のユーザーが「活用している」と回答した。コンクリート工事の調整やクレーン作業の可否の判断などに使用しているとのコメントがあったという。また、見学者が多いという万博工事特有の現象ではあるが、雨具の用意など見学者の受け入れ準備にも役立っていることが分かった。高谷氏は「アンケートから、当初想定していた通りの使い方をされており、サービスが現場に浸透していることがうかがえた」と話した。
アンケートの自由回答では「気象予測が自動的に手元に届くことに価値を感じている」というユーザーの声が複数あったという。「天候が悪化する予測がスマホに届き、実際に空を見上げて雨が降り出しそうだと判断できれば、雨対策を準備できる。こうした注意喚起の観点で価値を見いだしてもらっているようだ」(高谷氏)。気象予測の精度は場所や状況によって異なるため定量的に示すことは難しいが、高谷氏によれば「気象予測を業務で活用しているとの回答が9割を占めていることからも、精度には一定の評価を得ている。実際に、大阪ではめったに起こらない氷点下の気温を的中させた実績もあり、極端な現象でも予測が可能だと示した」。
大阪・関西万博工事現場での実証は、2024年度末で終了する予定だ。実証の中でサービスの有用性の評価や改良を進め、2025年度の外販を目指す。高谷氏は、「サービスを実用化し、外部へ広く展開していくことで、全国の建設現場の生産性と安全性の向上に貢献していきたい」と展望を語った。
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