本連載では、FMとデジタル情報に軸足を置き、建物/施設の運営や維持管理分野でのデジタル情報の活用について、JFMAの「BIM・FM研究部会」に所属する部会員が交代で執筆していく。今回は、日建設計の光田祐介氏が担当した「ミュージアムタワー京橋」の事例などに触れつつ、BIM×FMのコンサルタントの立場から、具体的な手順と、特に重要となるEIR(発注者情報要件)について説明する。
私はJFMAのBIM・FM研究部会に2023年から加入させていただいた新参者ではありますが、前職も含め、約10年前から現在までBIMとFMのデータ連携について研究開発から実装まで取り組んできました。また、現在は日建設計のデジタルソリューション室で、スマートビルやスマートワークプレースに関するコンサルティング業務に携わっており、その一部として「BIM×FM」や「IWMS(Integrated Workplace Management System)」についてもクライアントに対して、コンサルティングサービスを提供しています。
FMにBIMを利用する理由は、データ上2つの意味があると考えています。1つは、建築物から3次元形状や位置情報といった幾何学的な情報を得るための手段。もう1つはBIMの属性情報と呼ばれる建築部材の詳細情報を物>フロア>部屋>アセット(資産)のような構造化されたデータベースとして取り出すための手段です。前者の方が取り上げられがちですが、私は以前から後者の方がより重要と捉えています。
ここでは詳しいFMについての説明は割愛しますが、FMの業務は知れば知るほど幅広く、BIMから得られるデータだけで全てがカバーできるわけではありません。むしろ、BIMが寄与できる範囲はごく一部です。BIMが役立つ例としては、設備などの「資産メンテナンス管理」や、部屋や用途などの「スペース管理」などが挙げられます。
簡単に言うと、Uberなどの配車サービスと地図アプリの関係に似ていて、BIMは地図アプリのようにアセットや空間のデジタル上の位置情報を示すことが得意で、これを生かしたアプリケーションが向いています。
日本ではなかなかDXを活用したFM手法が根付かなかったこともあり、当社も含めた設計事務所やゼネコンなどがBIMや建設データの活用がここ数年で広がったのを契機に、この分野に参入する事例が増えてきています。海外のFMプラットフォームベンダーと対話すると、日本特有の現象のようで、「なぜ日本人はビム、ビムと言うのか!」と不思議がられます。しかし、逆の見方をすれば、DXを活用したFM手法を普及させるチャンスとも言えるでしょう。
国土交通省の建築BIM推進会議でも「維持管理BIM」というキーワードが出てくるなど、近年その必要性が社会全体で謳われ始めていますが、今まで普及が進まなかった理由には以下のようなものが考えられます。
(1)PCやクラウドサーバのスペック、Web環境で3Dデータを扱えるアプリケーションなど技術的なボトルネック
(2)そもそもBIM自体が普及していない。操作や作成できる人材が少ない
(3)利用側のニーズが捉えられていない。発注者側に求める機能との不一致
各種統計や個人的感覚では、(1)のハードやソフトウェアの不足と、(2)のBIM環境の課題に関しては、ここ10年でかなり解消されつつあります。PCのマシンパワーが上がり、クラウド上で3Dデータの閲覧や編集も含めたWebアプリが動作可能になっています。さらに、さまざまなSaaSが増えることで、運用コストも下がりつつあります。しかし、(3)が一番の問題です。発注者はDXの重要性を理解しているものの、FMでどう活用できるか、特にBIMのFM領域での有効性に関してはかなり曖昧な認識です。そこを明確にするのが私のようなコンサルタントの役割となります。
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