最近、注目を集めているのが「ウェアラブル型/バックパック型」だ。機材を背負って歩くだけでデータを取得できる3Dスキャナーで、赤外線レーダーを物体に照射し、座標をデータとして記録する。一例として、1日で1万5000平方メートルほどの広範囲のデータを取得できる。地上型で必要な撮影計画や機材の設置、待ち時間などが不要になるため、計測時間の大幅な短縮が見込める。計測時間を比較すると地上型のTLSでは約30分だったが、ウェアラブル型は3分で済む。複雑な建物の形状を移動するだけで取得するため、建築分野で盛んに用いられている。
他にもiPhoneに搭載された機能を用いる「ハンディタイプ型」も登場している。ハンディタイプ型は、近接の計測で密度の高い点群データの取得に優れ、個人用や工業製品などの小さい対象のデータ取得に向いている。
どのタイプでも小型化や省力化が進んでいるとともに、点群の密度や色情報の取得でも高度化しており、今後はさらなる高性能な計測機器の開発が期待できる。
3Dモデルの普及とともに、サイバー空間に現実世界を3Dデータで再現する“デジタルツイン”の取り組みも本格化している。電信や電話の発展の中で発展してきた古い設備や過去を語る史料などを展示しているNTT西日本 九州支店の「門司電気通信レトロ館(旧門司郵便局電話分室)」では、ウェアラブル型3Dスキャナーで館内の点群データを取得した。クラウドにアップロードしてデジタルツイン化し、Webの館内案内として活用している。館内を立体的に可視化し、Web上で疑似的に各展示品を見学して回る=ウォークスルーとして用いている。
設計・施工の先の建物の運用保守にあたるファシリティマネジメントの分野でも、建物維持管理や修繕などで3Dモデルとデジタルツインは用途が広がりつつある。補導用ブロックが陥没した場合、その場所をマーキングして記録し、どのような作業をすべきかを視覚的に共有。Web上のため、指示や相談などもすぐに伝えられ、業務効率化の効果は高い。
構造計画研究所の吉岡康浩氏は、「建物の竣工時に3Dの空間情報を取得できれば長年にわたって情報交換を簡単に素早く共有できる」と指摘する。今後は、誰もが映像クオリティーの高いデジタルツインを活用したファシリティマネジメント業務にシフトしていく未来像を描く。
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