穴吹氏は、「実験で使用した画像には継ぎ目があったり、汚れがあったりと誤検知が発生してしまいそうだが、正確に捉えられ、東設土木コンサルタントの担当者はAIを使えばここまでできるのかと感動のコメントをいただいた」と振り返る。
変状検知サービスは、高解像度の画像からコンクリート面の状態を検証し、ひび割れの幅別に色分けされたCADデータ(DXF形式)を生成する。幅0.05ミリまでのひびを検知し、見間違いやすい汚れが多い壁面でも、ひび割れだけを検出する。検知結果は、東設土木コンサルタントとジーテックがの変状データを3Dで一元管理し、展開図も作成するツール「CrackDraw21(クラックドロー21)」とのデータ連携で、点検調書の作成や補修計画の策定なども可能になる。
その後、国土交通省の技術公募にも応募し、実地でもひび割れ抽出率が99%という成果を達成したことで確信を持って、実務展開をするに至った。そして、NEXCO総研の協力も得て、さらなる研究へと歩み出した。
NEXCO総研は、NEXCOの3者から共同出資を受け、高速道路技術に関する調査や現場に即した研究開発を行っている。NEXCO東日本/中日本/西日本の3社管内で、道路の総延長は約9600キロ、橋梁は約2万3200橋、トンネルは約1931本にも及び、約5割が竣工後30年を超えている。
橋梁点検の技術開発では、これまでにも近接目視の困難箇所に対し、ドローンで撮影する場合の条件や橋梁形式ごとの撮影方法などを整理し、新たな技術の導入に向けた準備を進めてきた。
キヤノンと東設土木コンサルタントに、NEXCO総研が加わった共同研究は、「AIを用いた橋梁点検の効率化や高度化に関する共同研究」として2021年に着手。さまざまな観点からAI技術の課題やポイントを整理し、変状検知から一歩進み、現在はひび割れなどの損傷度などを判定する「個別変状ランク判定」にAIをアップデートしている。
NEXCO総研 基盤整備推進部 管理基盤推進室 室長 山之内猛志氏は、「技術レベルが上がってきたAIが果たして、実務に足るかを検証し、現場で扱いやすいAIシステムとなることを目指した」と語る。
共同研究ではまず、点検目的で土木技術者が画像を撮影する際、注意するべき点を分析。AIは、撮影時の時間ごとの明暗の影響は小さいものの、ピントやブレが精度に関わることを確認し、キヤノンの技術で補った。
また、ひび割れの種類ごとに、AI抽出の精度もテスト。ひび割れの発生原因は、中性化、疲労、塩害、凍害、コンクリート中の化学反応で生じるアルカリ骨材反応(アルカリシリカ反応:ASR)の5種類がある。そのため、発生原因は地域ごとに異なり、ひび割れの見た目も変わってしまう。そのため、全国の高速道路でひび割れを撮影し、東設土木コンサルタントの豊富な点検ノウハウをもとに、全ての種類のひび割れに対応可能だと証明した。
最も大規模な検証は、全国の点検拠点で行った実務利用時の課題の洗い出しだった。キヤノンが提供するインフラ構造物点検サービスのクラウド版「インスペクション EYE for インフラ Cloud Edition」を用い、北は北海道から南は沖縄まで、延べ24会場の点検現場で2年間試行導入した。利用ユーザー数は約300人、総抽出回数は3761回、延べ対象画像数は2万8930枚、総抽出画素数は1兆3880億画素と膨大な数に上る。
ヒアリングも全国規模で併せて行い、試行目的の説明や要望を丁寧に聞き取り、撮影方法や画像処理、変状検知、調書作成に関する講習会も開き、利用する側の理解を深めてきた。
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