【特別寄稿:後編】改正宅建法が施行!不動産業界のデジタルシフトは実現するか?“不動産テック”を阻む諸課題とその対応策(後編)(1/2 ページ)

本連載では、アドビが独自に実施した調査データを踏まえ、不動産業界での業務のデジタル化に立ちはだかる現状の課題を整理し、宅建法改正を受けて業務がどのように変わっていくのかを、アドビ デジタルメディア ビジネスマーケティング執行役員が前後編に分けて解説します。

» 2022年05月30日 10時00分 公開

 前回はアドビの調査結果をもとに、不動産業界が他業界に比べても、営業業務でDX推進に遅れが見えると問題提起し、書類を保管するコストやリスクについて紹介しました。連載2回目となる今回は、書類を運用するための業務負担を見直し、2022年5月の宅地建物取引業法(宅建業法)改正以降で、何が変わるのかを解説します。

働き方改革を阻害する、書類業務の運用上のコストとリスク

 不動産業界に限らず、書類業務を継続することは、企業として取り組むべき、働き方改革や生産性向上の阻害になる可能性があります。特にコロナ禍では、多くの企業がテレワークに切り替えましたが、書類の印刷や確認、押印などのために出社せざるを得ないケースが散見されました。

 アドビが2020年3月に公開した調査では、テレワークにおける業務上の問題点として、「会社にある紙の書類を確認できない」(39.6%)、「プリンタやスキャナーがない」(36.2%)が挙がりました。さらに、テレワーク中でも、社内にある書類の確認や書類への押印やサインのために出社した経験について聞き取りしたところ、「頻繁にある」(21.4%)、「時々ある」(42.8%)となり、6割以上が書類業務のために出社せざるを得ないときがあったと判明しました。

 書類がデジタル化されれば、オンラインでの処理が可能になるので、出社の必要が無くなり、テレワークを継続できますし、印刷や製本、書類確認の業務の省力化も期待できます。

 デジタル化は、取引先や顧客満足度の向上にもつながるはずです。賃貸物件の契約、更新などの事務処理で、顧客が店舗に足を運んだり、郵送したりしなくても完了できるようになれば、顧客満足度は上がるでしょう。契約締結までの時間も短縮されれば、不動産会社と顧客の双方にメリットがあります。

改正宅建法で、これまでできなかった契約のデジタル化が可能に

 さて、これまで不動産業界のデジタル化に立ちはだかる壁となっていたのが、宅地建物取引業法(宅建業法)です。法律によって、対面での説明や紙による契約書の取り交わしが定められていたため、デジタル化ができなかったのです。しかし、2021年5月にデジタル改革関連法により宅建業法が改正され、2022年5月に施行されています。

 従来の宅建業法では、不動産の取引業務で、「契約締結前の重要事項の説明」「重要事項説明書の書面での交付」「契約内容記載書面の交付」が規定されていました。このうち契約締結前の重要事項の説明は、「ITを活用した重要事項説明」の運用開始に伴い、2017年から賃貸物件、2021年からは不動産売買でも、テレビ会議などを利用して、オンラインでの重要事項説明が可能になりました。

 そして2022年5月の改正宅建法の施行により、契約相手側の承諾があれば、重要事項説明書と契約内容記載書面の交付でも、電子契約を使った電磁的記録での対応が可能になりました。つまり、これまで賃貸物件の契約や不動産の購入などで、来店や郵送によって書類のやりとりを実施していましたが、デジタル化/オンライン化に置き換えることができるようになったのです。

 これにより、書類の取り交わしのために、店舗の営業時間内に来店しなければいけないなど契約する側の不都合が減り、顧客体験の向上が期待できます。また、企業側としても、捺印(なついん)までのスピードアップ(セールスサイクルの向上)や、「スキャンしてファイリング」といった煩雑な業務からの解放といったメリットを享受できます。

 上記以外にも不動産取引に関する書類は多数ありますが、定期借地の事業用契約など一部の文書を除き、今回の法改正によって、ほとんどの文書をデジタル化することが実現し、不動産業界のDXが大きく進展することが期待できます。

法改正で不動産業務のデジタル化が後押しされ、紙主体やハンコ文化から脱却し、取引先や顧客満足度の向上ももたらされる Photo by Adobe Stock

 法改正に先駆けること、既に顧客との契約の一部業務をDX化している企業も存在します。

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