大成建設が透過性地下水浄化壁工法の長期耐久性を検証、耐久性予測精度を向上導入事例

大成建設は、揮発性有機塩素化合物を対象とした汚染地下水拡散防止技術である透過性地下水浄化壁工法「マルチバリア」について、設置から15年以上経過したサイトに適用し長期耐久性の検証を行った結果、現在でも浄化効果が継続されていることと、さらに10年以上の浄化機能維持が見込めることを確認した。今後は、設置されたマルチバリアの実測データを増やし耐久性予測精度の向上を図る。

» 2022年04月06日 09時00分 公開
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 大成建設は、揮発性有機塩素化合物(以下、CVOCs※1)を対象とした汚染地下水拡散防止技術である透過性地下水浄化壁工法「マルチバリア」について、設置から15年以上経過したサイトに適用し長期耐久性の検証を行ったことを2022年3月23日に発表した。

※1 CVOCs:揮発性有機塩素化合物(Chlorinated Volatile Organic Compounds)の略。トリクロロエチレンなどに代表される化合物群で、各種溶媒や洗浄剤として工業利用されてきた経緯があるが、有害性が確認されたため環境規制物質に指定されている。

15年以上経過した浄化壁でも汚染物質を吸着・分解する性能が十分に残存

 国内では、CVOCsで汚染された地下水の拡散を防止する手法として、地下水を地上にくみ上げ、水処理施設で汚染物質を除去し、清浄な処理水に変え、下水道などへ放流する技術「揚水バリア」が多用されてきた。

 しかし、上記の技術は、揚水した汚染地下水を継続して浄化処理しなければならず、維持管理を毎日行う必要があるため、運用・維持管理コストが膨大になるといった課題があった。

 解決策として、大成建設は、汚染物質を吸着・分解する浄化材を用いて地下に透過壁を作り、汚染地下水を浄化する技術として「マルチバリア」を開発し、土壌汚染対策法※2が施行される以前の1997年に、国内で初めて電子部品工場の汚染地下水拡散防止工事に対して適用してきたという。

※2 土壌汚染対策法:2003年2月に施行され、土壌汚染状況の把握、土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置などを実施し、国民の健康を保護することを目的とした法律

マルチバリアと揚水バリアの処理方法比較 出典:大成建設プレスリリース
「透過性地下水浄化壁工法(マルチバリア)」の概要図 出典:大成建設プレスリリース

 以降、さまざまな物質により汚染された地下水の浄化対策工事を実施し、これまでに約70件のサイトで適用した。今回は、竣工から15年以上経過した前述の工事で設けたマルチバリアに対して、浄化材に使用した特殊鉄粉を回収・評価した結果、マルチバリアの長期耐久性について新たな知見が得られた。

 具体的には、マルチバリアの耐久性に関する当初の設計では、長期室内試験を基に約20年の浄化機能維持を見込んでいたが、検証を通じて、竣工から15年以上経過した浄化壁でも汚染物質を吸着・分解する性能が十分に残存し、CVOCs濃度を地下水環境基準以下まで下げられる機能を維持していることを確認した。この結果により、今後さらに10年以上の浄化機能維持を見込めることが分かった。

ライフルサイクルコストの比較 出典:大成建設プレスリリース

 また、これまで国内外では、浄化壁の耐久性に関する実測データはほとんどなく、これまでマルチバリアの設計では、対象施設ごとに行う適合性試験や長期室内試験に基づいた耐久性予測結果を用いてきたが、今回実施した長期耐久性の評価から、施工後のサイトに施した浄化壁の機能維持状況が把握でき、耐久性予測精度の向上が可能となる。

 今後は、今回の追跡調査により得られたデータから長期耐久性の予測精度を向上させ、既に開発済みである浄化機能を回復させるメンテナンス技術と併せて、マルチバリアによる汚染地下水拡散防止技術のさらなる信頼性向上に取り組んでいく。

汚染サイトから回収した反応剤(特殊鉄粉)の断面(15年以上供用したマルチバリア内部から回収した特殊鉄粉。断面を電子顕微鏡で観察した画像で、白い部分が特殊鉄粉の未反応領域を、その周囲が分解反応後の生成物で被膜上になっている。この状態で、必要な反応性を維持していることを確認) 出典:大成建設プレスリリース

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