安藤ハザマやエム・ソフト、日本システムウエアなどで構成される「山岳トンネル遠隔臨場支援システム開発コンソーシアム」は、坑内の施工管理を効率化する「クラウドを活用した遠隔臨場支援システム」を開発した。山岳トンネル遠隔臨場支援システム開発コンソーシアムは、内閣府の「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」を活用した国土交通省の「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に選定されている。クラウドを活用した遠隔臨場支援システムは、2021年3月に適用結果について国土交通省へ報告を行い、2021年5月に総合評価Bの評定を得た。
安藤ハザマやエム・ソフト、日本システムウエア、山口大学 名誉教授の中川浩二氏、筑波大学 情報系教授の松島亘志氏で構成される「山岳トンネル遠隔臨場支援システム開発コンソーシアム」は、山岳トンネル坑内および切羽における接触事故の低減や施工管理業務の省力化を目的に、「クラウドを活用した遠隔臨場支援システム」を開発したことを2021年7月26日に発表した。
山岳トンネル工事で施工を効率化するためには、トンネル坑内を俯瞰して、作業区間の建設機械や仮設備の配置を適切に管理することが必要となる。しかし、山岳トンネル工事は、切羽の進行に伴って施工箇所が移動して作業区間が長くなり、通常の無線通信では電波が届きにくいことから、トンネル全線で施工情報を共有することが困難であり、トンネル全体の坑内状況をスムーズに可視化する方法が求められている。
また、山岳トンネル工事では、トンネル掘削時に切羽の地質を評価するために切羽観察を実施する。切羽観察は、切羽近傍で行う目視によるチェックが中心であり、その精度や定量化、安全性が課題となっている。さらに、所定の頻度で、受発注者の双方が切羽観察を行いトンネルの支保パターンを選定する岩判定を実施するのが一般的だ。だが、岩判定に当たって作業調整による業務ロスが発生する場合があり、受発注者間における円滑な地質情報の共有が必須となっている。
上記の問題を解消するために、山岳トンネル遠隔臨場支援システム開発コンソーシアムはクラウドを活用した遠隔臨場支援システムを開発した。新システムは「トンネル全線の可視化システム」と「切羽地質情報取得システム」から成る。
トンネル全線の可視化システムは、安藤ハザマが開発した計測技術「トンネルリモートビュー」を利用する。具体的には、トンネルリモートビューで測定した坑内のデータをクラウドサーバに保存し、受発注者が専用ソフトを用いることなくWebブラウザ上で計測データを閲覧できる機能を備えている。閲覧画面の坑内距離カーソルをドラッグすることでトンネル内における多様な場所の画像を見られる。
トンネルリモートビューは、360度カメラを取り付けた車両で坑内を走行しつつ撮影しさまざまなデータを取得し、車速から走行距離を算出することで、GNSSなどを使えないトンネル坑内でも撮影位置情報を得られる。
切羽地質情報取得システムは、従来の目視による切羽観察に代わるもので、地質評価指標のうち、岩盤の圧縮強度、風化程度、割れ目間隔について定量評価を行える。穿孔データによる圧縮強度の評定にも対応している。
システムは、カメラやハロゲン照明、制御PCなどを1台の計測車両に搭載しており、切羽で取得した測定データと穿孔データを集約し、専用のソフトで処理を行うことで評価結果を出力する。そして、地質評価結果を受発注者がクラウド上で共有する機能を持ち、切羽の地質評価結果をクラウド上にアップロードすることで、受発注者が遠隔地でも切羽の連続的な地質状況を把握可能。
山岳トンネル遠隔臨場支援システム開発コンソーシアムでは、国土交通省中国地方整備局発注の「玉島笠岡道路六条院トンネル工事(岡山県)」で2020年11月にクラウドを活用した遠隔臨場支援システムを適用し有効性を検証した。
その結果によれば、トンネル全線の可視化システムでは、現場の状況をWebブラウザから見渡せるようになり、施工管理の省力化を実現した他、施工中の覆工状況などを直接現場に行くことなく確かめられ、接触機会を低減しつつトンネル工事の品質確保につなげられた。加えて、クラウドでの情報共有により、発注者がトンネル全線の坑内状況を容易に分かるようになり、現場巡視の人手を減らせた。
切羽地質情報取得システムでは、従来の担当者による定性的評価が解消され、経験の少ない職員でも切羽評価が行えるようになった。従来の目視観察結果と比べると、支保パターンの選定では、一致率が100%を記録し、各評価項目では、圧縮強度で95%、風化度で90%となり、高精度な地質評価に役立つことが判明した。
また、切羽の地質評価にかかる時間を約50%減らせ、受発注者が切羽地質情報取得システムにより地質情報を共有することで、定常の岩判定を遠隔で実施し、現場臨場を低減することも確認。今回の試行では、現場臨場頻度を約50%減らせることが分かった。さらに、観察者が切羽に立ち入ることなく約10メートル離れた位置から坑内を測れるため、職員の肌落ち災害の防止にも貢献した。
今後、山岳トンネル遠隔臨場支援システム開発コンソーシアムでは、今回のシステムに測定項目の追加や取得画像の高精細化といった改良を施し、安藤ハザマの山岳トンネル現場に適用して施工管理のさらなる効率化に取り組む。既設トンネルや導水路などの維持管理工事における点検、調査、災害時の状況確認にも活用する見通しだ。
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