作業プラットフォームとして機能拡張した“Archicad”で広がる「BIMの木」Building Together Japan 2020(2/3 ページ)

» 2020年11月17日 11時24分 公開
[川本鉄馬BUILT]

調整作業を“フロントローディング”するワンプラットフォーム型

 これがワンプラットフォーム化されると、情報が共有されワークシェアリングがしやすくなる。各部門で重複して測定していた部屋面積の測定などは共有化され、手戻りも軽減される。

 また、アウトプットのクオリティーも向上する。従来型のワークフローでは、意匠・構造・設備の部門ごとに作業を行い、LOD(Level of Detail)でのすり合わせを経ていないモデルをあるタイミングで統合し、干渉チェックをしていた。このため、潜在化していた課題が統合することで、始めて浮かび上がってくることがあった。さらに課題を限られた時間内で調整する必要もあるため、不整合を見逃すリスクも孕んでいた。

 対して、ワンプラットフォーム型のワークフローは、調整作業自体を“フロントローディング化”できる。これによって部門間の接触が増え、LODごとの干渉チェックの負荷が小さくなる。また、見逃しのリスクが小さくなり、結果的に設計自体のクオリティーが向上することにもなる。

ワンプラットフォーム型のワークフローでは、LODごとの干渉チェックの負荷が低減できる

 石川氏は、「BIMで設計者をつなぐことで、スピードとクオリティーの両面で効果を出し、より新しい設計環境にたどり着けるようにチャレンジしていきたい」と抱負を語った。

BIMで経験して技術をつなぐ、ノウハウ運用手法

 続いて、壇上に上った墓田氏はBIMがつなぐものには、「経験」と「技術」があると提唱した。

梓設計 アーキテクト部門 BASE01副主幹 墓田京平氏

 先に触れたように、梓設計は空港やスポーツ施設をはじめ、バリエーションに富んだ建物を多く手掛けている。それらの設計は用途別に分けられ、ノウハウがストックとして管理されている。ノウハウを活用すれば、新たな物件の設計も効率的に行えるというわけだ。

 しかし、現時点ではこの「ノウハウ」は明確には定義されておらず、図面や竣工写真、動画、関連規則などが規則性なく管理されている状態だという。これらを具体的な設計につなぐには、設計者が個々に蓄積されたプロジェクトのノウハウを理解しなければならない。つまり、ノウハウの運用は設計者の力量に左右され、習熟には時間がかかることを意味する。

 だが、過去の案件を分類してデータ化し、BIMを使って次のプロジェクトにつなぐ方法がある。この方法では、運用面で設計者が介在する必要がなくなる。結果、設計者の力量に左右されることなく、設計をアウトプットする際のスピードや質もアップする。

過去の案件をデータ化できれば、将来の設計に蓄積したノウハウが活用できる

 墓田氏は、これを「データ駆動型のノウハウ運用」とし、梓設計が注目している手法と語った。

 ただし、過去案件のプロパティデータをダイレクトにBIMに流すことはできない。過去のプロジェクトには、個別の要求性能や設計者のデザイン意図など、オリジナル要素が多分に含まれているからだ。BIMに流すには、まずこれらを整理するための受け皿として、プロジェクトデータベースが不可欠となる。

 講演では、ノウハウをデータベース化する具体例として、Excelを利用し、過去案件のデータをArchicad上で利用する手順を披露した。

BIMで活用するには、過去のノウハウをデータベース化する必要がある

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