3.11復旧工事など災害対応で活躍したCIM、岩手・地方建コンの奮闘Autodesk University Japan 2019(5/6 ページ)

» 2020年02月26日 06時05分 公開
[湊日和BUILT]

大きなCIM、小さなCIM、それぞれの強みとは

 藤原氏に代わって、ICT推進室の佐々木高志氏は、2018年以降の国交省と同社の取り組みについて語った。国交省は、2018年度と2019年度に、BIM/CIMのリクワイヤメントを更新している。現在、リクワイヤメントの必須項目は「CIMモデルの作成と更新」「属性情報の付与」「CIMモデルの照査」「CIMモデルの納品」の4つだ。

 これらに加えて、「段階モデル確認書を活用したCIMモデルの品質確保」や「情報共有システムを活用した関係者間における情報連携」などの事項を設けた8つの選択項目と、技術開発提案書作成手引き1つの計13項目でBIM/CIMのリクワイヤメントは構成されている。

国土交通省のBIM/CIMのリクワイヤメントの概要

 「BIM/CIMの使用を前提とした工事を受注した会社から多様な案件の相談を受け、協力しているが、企業の多くがCIM導入ガイドライン案をはじめとする各基準の要領を把握していないケースが多い」(佐々木氏)。

 同社では、こういった実情を踏まえ、案件の種類に合わせて顧客に提案するCIMのタイプを変えている。カテゴリーは3種類で、大規模工事を想定した「大きいCIM」やICT施工をイメージした「中間のCIM」、現業の負担を減らす工夫である「小さなCIM」がある。大きいCIMは企業間の協業に向いており、小さいCIMは業務の効率化に効果的だとする。

大きいCIMと小さいCIM

 佐々木氏は、「大規模な計画であれば大きなCIMで必要な予算を確保できるが、地方の中小企業では大規模な事業の受注は難しく、費用を用意するのも難しい。また、3DCADの操作に長けた設計者も少なく、実務にプラスして、慣れない3DCADの作業をしている設計者が多いのが現状だ」と話す。

 続けて、「このような状況を考慮し、昭和土木設計では、特別な作り込みをしていない通常の設計データを活用し、工数を減らせる小さなCIMを目指した」とコメントした上で、後工程での利用も目指した道路設計業務における小さなCIMの活用事例を紹介した。

 2018年度に昭和土木設計が実施したこの業務では、設計者から平面図2枚、路線シフト図2枚、縦断図3枚、標準断面図4断面、横断図62断面、線径計算書19ページが貸与され、これらの資料をベースに3Dモデルが作られた。

 ワークフローはまず、線形計算書をベースに平面線形を作成する。この時、基準となる線形や路線シフト図などの付随する要素も関連付けしながら3Dモデル化する。

 この段階では、標高ゼロの平面的なモデルなので、その次に縦断図の高さを入力する。縦断図から縦断曲線も入れながら3Dモデル化するとともに、縦断図の横断勾配や拡幅の情報も同時にインプットしていく。基準となる要素や情報が構築できた後、各横断図をそれぞれの測点に配置する。

 さらに、標準横断図を基に、現場地形を考慮したコリドーを作成する。コリドーを使用して、スケルトンモデルやサーフェスモデルとして基本的な土工形状モデルを作る。これらの線形モデルや土形状モデル、地形モデルを「Navisworks」や「InfraWorks」でまとめ、統合モデルにする。統合モデルには、オルソ図も重ねられる上、必要に応じて国土地理院のデータを活用し、建物のモデルも入力できる。

線形計算書
縦断図

 「この統合モデルは、少し調整すれば、CIMリクワイヤメントで『契約図書としての機能を具備するCIMモデルの構築』の道路の3Dアノテーションモデルに使えるとも思っている」(佐々木氏)。

 また、「Navisworksで統合モデルの座標値を容易に確かめられる他、横断図は測量断面図を使用しているため、地形の変化点しか表示できないが、コリドーでスケルトンモデルを作成しておけば、計画における変化点の座標も即座に取得可能だ。これらはリクワイヤメントにおける施工段階で、モデルの効率的な活用方策の検討にもなるはず」と語った。

 統合モデル作成の段階で各図面の整合性も確認しながら、作成しているためリクワイヤメントの選択項目の1つであるCIMモデルを活用した効率的な照査にも使えるという。

 佐々木氏は、「例えば、先ほど線形を線形計算書から作成していると話したが、これはICT施工など施工側の立場で3Dモデルを作った経験に端を発している。現状、ICT施工では、2D図面をトレースして3Dモデル化しているが、そもそも2D図面で合っていない場合が多くあった。寸法の数字だけ直して、図を直していないケースや曲線間に微細な直線区間がある場合などだ。平面図の線形が接線でなく書かれていることもある」と指摘した。

 また、「線形計算書は端数が切られていたり、計算書やPDFデータで文字を抽出できず、再入力の作業が必要だったり、施工業者は3Dデータの作成に苦労している。線形を計算書ではなく、3Dデータで提供してくれるだけでも受け手は非常に助かるし、設計者も考えていた通りの情報を渡せると思う。3Dデータを与えられなくても、計算書をCSVやテキスト、Excelなどの形式にするだけでも効果は違う。つまり、小さなCIMの第一歩は、上流から後工程で活用できるデータを流すことだ」と強調した。

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