ディスプレイ業大手の丹青社は、「住宅・ビル・施設 Week 2019」の基調講演で、にぎわいや売れる空間づくりには何が必要かを、「JR大阪三越伊勢丹」や「ミライザ大阪城」のリニューアル事例から考察した。
リード エグジビション ジャパンは2019年12月11〜13日、東京ビッグサイトで建設全般を対象にした総合展「住宅・ビル・施設 Week 2019」(会期:2019年12月11日〜13日、東京ビッグサイト 青海展示棟)を開催した。本稿では、会期中に連日行われたセミナーから、「にぎわい、売れる空間づくり〜商業空間・パブリック空間の事例から〜」と題する丹青社の講演を紹介する。
スピーカーは、丹青社のデザインセンターで、クリエイティブ・ディレクターを務める万井純氏(デザインセンター プリンシパル クリエイティブディレクター)と、釼持祐介氏(デザインセンター コミュニケーションデザイン局 クリエイティブディレクター)。
両氏は、丹青社のクリエーターとして各種の受賞歴があり、多数のメディアにも登場している。今回は、デザイナーに求められる役割の変化をはじめ、実際のデザイン手法、今後のディスプレイに関する考え方など、実例を交えつつ紹介した。
講演は、釼持氏が進行役を兼ねながら、2人が説明分野を分けつつ進行する形となった。冒頭は、釼持氏が現在の仕事内容やポジションなどを紹介するところからスタートした。その後、デザイナーに期待される仕事の内容がここ数年で大きく変化していることへと話を展開した。
釼持氏は、丹青社で20年ほどのキャリアがあり、最初の頃を振り返って、「レストランであればシェフやオーナー、その他でも、各業態が求める世界観を美しくトレースすることがデザイナーには必要とされていた。しかし、2010年以降は企業そのものやプロダクトプランのイメージに寄り添った空間デザインが求められるようになった」と述懐。転換点となったのは、2015年に手掛けたJR大阪三越伊勢丹を改装して、「LUCUA 1100(ルクア イーレ)」に生まれ変わらせた案件だったという。
「当時の伊勢丹は、非常に美しく洗練された空間で整えられていた。しかし、大阪の顧客からは“東京っぽい”“スカしている”というネガティブな声もあった。そこで、当時の伊勢丹が実現したい世界観をデザインで表現するとともに、売り場をミッシー/ミセス向けから、小物アクセサリーのフロアへと改変することを提案した」(釼持氏)。
小物アクセサリーは、モノは小さいが種類が膨大で、それぞれにバイヤーが付いている。それぞれのバイヤーが自分の扱う商品に売り方のイメージを持っているので、フロアの改変には非常に多くの決済者の意思を統一する必要がある。
これに対し、釼持氏は各商材の言葉を定義した上で、コンセプトシートを作成し、30人近い決済者の意思を取りまとめた。インテリアデザイナーの作業に、決済者の意思を統一させて盛り込むことは、これまでに無いエポックメイキングなチャレンジだった。使用するマテリアルに関しても、伊勢丹全体、フロア、それぞれのマーチャンダイザーといったツリー構造をしっかり作って、決済者を説得した。
釼持氏は、「インテリアデザイナーに課せられる課題は複雑化している。その複雑化しているクリエイティブな課題を整理する役割が、インテリアデザイナーには不可欠になっている」とし、さらに「デザインが多くの決済者の意見を固めるためのオーソライズドツールとして、有効に活用される時代になってきた」と語った。
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