鹿島建設は、CIMモデルをAR技術によって手に持ったスマートフォンを介して見える化するモニターを開発した。豪雪地帯のダム工事で既に導入され、複数の工事関係者が施工計画のイメージを共有した他、雪に埋もれた構造物の可視化にも役立った。今後は、ダム工事だけでなく、埋設物や支障物が多い都市部の工事など、他の工種にも適用範囲を広げていく。
鹿島建設は、サイテックジャパンと共同で、現場画像にCIMモデルを重ね合わせ、実際の現場状況と比較して施工計画の作成や安全管理などに活用できる「ハンディ型モニター」を実用化させた。秋田県で施工を進めている成瀬ダム堤体打設工事で初適用し、有効性を確認したという。
成瀬ダム堤体打設工事では、工事用道路造成から基礎掘削、材料採取・仮置き、プラント設備設置、堤体打設までの全ての計画をCIMモデル化し、施工計画作成の効率化や合理化を図っている。そのため、発注者、元請社員および作業員が構造物の完成形を明確にイメージし、共有することが不可欠となっていた。
CIMモデルを現場の映像に重ね合わせて表現するツールとしては、各人が装着して視認するVRゴーグルタイプのものがあったが、複数人が同時に画面を見ながら情報共有しながら、打ち合わせや施工状況の確認に生かせるようなツールの開発が求められていた。また、土工の仕上がりを示す目印(丁張り)が無いため、施工計画通りに工事が進んでいるか直感的に判断することが難しいことも課題となっていた。
鹿島建設が開発したツールは、市販のAR(拡張現実)対応スマートフォンにGNSS(グローバル衛星測位システム)受信アンテナを取り付け、専用アプリをインストールすることで、CIMモデルを現場の画像上に映し出す。GNSSによって正確に自らの位置を把握したモニター上には、CIMモデルが表示され、現在の地形との整合性や支障物の有無などを複数人がその場で同時に検討することができるようになる。
使用環境も、GNSSを受信できる環境であれば、特別な通信設備などを追加することなく、使える。モニター自体は、小型・軽量のハンディタイプのため、持ち運びも容易で、インターネットを経由して工事事務所や本店・支店など、遠隔地とのリアルタイムな情報共有も実現する。
国土交通省東北地方整備局発注の「成瀬ダム堤体打設工事(第1期)」(工期:2018年5月9日〜2022年12月9日)では、ICT土工による基礎掘削の切り出し位置と、堤体構造物の位置確認に利用した他、右岸斜面に計画したベルトコンベヤー基礎の位置確認にも用いた。
豪雪地帯での施工となった現場では、雪に埋もれた構造物や資材をARで見える化し、安全な除雪作業に役立てた。堤体打設が本格化する2020年には、建機の自動操縦システム「A4CSEL」(クワッドアクセル)や自動スライド型枠といった施工の自動化技術の導入が予定されており、施工管理にも利用することが検討されている。
鹿島建設では、将来は出来形をはじめとした検査への適用の他、ダムだけに限らず、埋設物や支障物の多い都市部の工事など、他の工種にも適用範囲を広げていくとしている。
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