人口減少や高齢化の影響で所有者が不明となった「所有者不明土地」。その所有者探索の方法と、有効利用を定める「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が2018年11月15日、一部施行した。
人口減少や高齢化の影響で、所有者が不明となった「所有者不明土地」。その所有者探索の方法と、有効利用を定める「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が2018年11月15日、一部施行した。
今回施行した特措法では、「所有者の探索を合理化」「所有者不明土地の利用を円滑化」「所有者不明土地の適切な管理」を法的な枠組みで明確化した。段階的に2019年6月1日には、「所有者不明土地を適切に管理する仕組み」も施行する。
所有者不明の土地がなぜここまで問題となったのか、あらためてその背景を振り返ってみたい。
再開発事業では、用地取得の際に地権者との権利調整で難航するケースが多く聞かれる。実際に、国直轄の事業では、2006年度からの10年間で、所有者不明土地が要因となり調整が難航した「あい路案件」が生じたケースは、それ以前の12.2%から、22.9%へとほぼ倍増した。一方で、地権者交渉における補償額への不満が要因で、あい路案件となったケースは17.1%から13.7%に漸減している。グラフでみると、2008年ごろを境に所有者不明土地が、補償額への不満を上回り、再開発の大きな障壁として浮上してきた事実が判明する。
そもそも所有者不明土地が増加した背景には、人口減少・高齢化の進行に伴う土地利用ニーズの低下、地方から都市部へと人口が移り土地の所有意識が低下したことなどがある。その結果、不動産登記簿の公募情報などによる調査でも所有者が判明しない、判明しても連絡がつかない土地、いわゆる“所有者不明土地”が急増した。
実際、国も事態の悪化に目をつむってきたわけではなく、所有者探索の手法についてもガイドラインを整備し、利用されてはきたが、法的に明確なものではなく、情報の照会に時間がかかるなど実効性に問題があった。そのため、民間からも法的な枠組みが強く求められるようになった。
ちなみに2016年度の地籍調査で、所有者不明土地は不動産登記簿上で約20%。探索の結果、最終的に所有者の所在が不明だった土地は0.41%。これらの数字は今後も膨らむことが予測されており、さまざまな場面で所有者特定のためにコストが増大することも見込まれることから、長い検討を経て2018年6月に特措法が成立した。
あらためて特措法の要点をみると、1.所有者の探索の合理化、2.所有者不明土地の利用を円滑化、3.所有者不明土地の適切な管理――を可能にする3つの仕組みがポイントとなっている。
1は、行政機関が所有者の探索で、必要とされる固定資産課税台帳や地籍調査票などの公的情報を調査することを法律に規定。
2が、肝となるもので、反対する権利者がおらず、土地に建築物が無いなど利用されていない所有者不明土地については、公共事業における収用手続きを合理化・円滑化する。具体的には、国、都道府県知事が事業認定した事業では、収用委員会に代わり、都道府県知事が裁定。審理手続きを省略し、権利取得裁決、明け渡し裁決を一本化させる。
3は、所有者不明土地の管理のため必要があれば、地方公共団体の長が家庭裁判所に対して財産管理人の選任を請求できる制度。
この他、2に含まれるものとして、2019年6月に施行される“地域福利増進事業”がある。都道府県知事が地域福利増進事業と確認したものについては、条件を課した上で、上限10年間の利用権を設定して土地の利活用を進める。同事業に該当するものとしては、駐車場、教育施設、社会福祉施設、病院などが想定されている。
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