――今後、VRのより発展的な活用方法などは考えられていますか。
長澤氏 今後、大きく期待しているのがシミュレーションの部分です。今後はBIMモデルを活用して、照明や熱環境の部分を中心に、高度なシミュレーションがより簡易に行えるようになってくると考えています。現在も作成したBIMモデルを別のソフトに移せば、高度なシミュレーションは実施できます。ただ、それをVR用のモデルに加工すると、そのデータをそのままBIMソフトに戻せない。これを都度運用するのは現実的ではないので、BIM上でもう少し簡易にシミュレーションができるようになるのに期待しています。
こうしたシミュレーションができるようになってくると、住宅設計の在り方も変わってくると考えています。例えば「リビングの明るさはこれくらいで、デスクの上はこれくらい」といった条件が決まれば、それを満たす設計案が自動的にできるようになってくる。いわゆる「コンピュテーショナル・デザイン」ですね。これまで、人が見えない経験値を根拠に行っていた設計を、より確実なものとして行えるようになる。これは先ほどお話した、設備の選定にも大きく関わってきます。
より大きな視点で見れば、プランニングに関してもそうです。住宅の場合、道路との距離など、その土地の制約条件によって、ある程度の外形は決まってくる。なので、過去のデータから、この敷地に対して、4LDKの間取り、リビングは大きめといった条件で計算すれば、その答えはほぼ出てくる。
実はフリーダムでは、こうした未来を見据えて、今抱えている設計者が作成したモデルのデータベース化を進めています。フリーダムには約160人の設計者がいて、年間2000件くらいの住宅モデルを作っている。ただし、この中にはもちろん実現しないものもあって、そのままお蔵入りになってしまっている。また、いままで作られた各モデルは、その設計者ごとにデータを持っている状態で、社内全体でナレッジとして共有できるようになっていませんでした。でも、そのお蔵入りのモデルの中には、どこかの誰かが“欲しい家”があるかもしれない。
現在考えているデータベースは、敷地や予算など、さまざまな条件項目を設定すると、適合したフリーダムの設計モデルが表示されるというイメージです。これらのデータが全てVRに対応していれば、“仮想的な住宅展示場”がつくれる。われわれのような独立系設計事務所で、モデルルームがなくても、具体的なものを見せられるとうのは大きなメリットです。
ただ、間取りのパターン数で競うのではなく、われわれは顧客が気に入ったモデルに、さらに手を加えてカスタマイズできるという点を強みにしていきたいと考えています。つまり、データベースにあるモデルをそのまま提供するのではなく、最初の“当てデータ”として生かしていく。
こうした設計やもっと高度なシミュレーションが発展するにつれ、設計者には顧客の要望やニーズをくみ取り、さまざまな情報をつなぎあわせ、設定すべき条件を見極める能力がより一層求められるようになると考えています。顧客が求める住宅というのはこういうもので、それを満たすにはこの条件設定が必要になるといった判断を行う、コンサルタントのような役割とセンスがよりさらに求められる。ただし、仮にコンピュータやAI(人工知能)が設計モデルをはじきだすようになっても、それが全て正解ではない。出てきたモデルに対して、ブラッシュアップするという力も必要になってくると思います。
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