大林組は2つ振り子を組み合わせ、小型化を図った制震装置「ペアマスダンパー」を開発した。超高層建物の場合、地震による建物の揺れを30〜40%程度低減できるとしている。
大林組はこのほど、震度6強〜7(阪神淡路大震災クラス)に相当する地震時に効果のあるコンパクトなTMD(チューンドマスダンパー)制震装置「ペアマスダンパー」を開発した。
TMD制震装置は、建物震動時に頂部の重りが建物と逆方向に動いて建物の揺れを低減する装置で、超高層建物の場合、地震時の建物の揺れを30〜40%程度低減することができる(図1)。
既存の超高層建物の耐震補強を行う場合、TMD制震装置は通常屋上に設置するが、大きな設置スペースが必要となるため、できるだけ装置をコンパクトにする技術が求められている。また、TMD制震装置は、建物の固有周期と同調しながら逆方向に動くことで揺れる力を打ち消し、建物の揺れを低減させるため、施工時に周期調整が必要になり、この調整に大きな労力がかかることが課題となっている。
今回、大林組は2つの振り子(振り子と倒立振り子)を組み合わせることにより、装置のコンパクト化と周期調整の簡素化を実現したTMD制震装置ペアマスダンパーを開発した。さらに、フェイルセーフ機構を設けることで、装置の安全性をより高めている。
建物は高いほどゆっくりと揺れるため、単振り子式TMD制震装置の場合、超高層建物になるほど重りとなる振り子の長さを長くする必要があり、装置が大型化する懸念があった。ペアマスダンパーは上からつるした通常の振り子に、重りが上に位置する倒立振り子を組み合わせることにより、通常の振り子が元の位置に戻ろうとする力を倒立振り子が倒れる力によって打ち消す。このため、振り子の長さを短くしたまま、振り子がゆっくり揺れるようにすることが可能だ。
TMD制震装置は振り子の周期によって制震効果が変わるため、周期の調整を容易に行えることが重要。単振り子式の場合はつり長さを変えることでしか周期調整できないため、装置の寸法に影響する可能性があるが、ペアマスダンパーは2カ所に設置した重りの重量比率を変えることで、周期を調整できる。このため、作業も容易で装置の寸法を変更する必要がない。
設計で想定した規模以上の巨大地震が発生すると、振り子の重りが大きく揺れて、周辺の構造物に衝突する危険性がありました。このためペアマスダンパーは、直接建物の上に設置せずに、間に、転がり支承(ボールベアリングによって水平方向に自在に動くスライダー機構を持つ支承材)とダンパーで構成されたフェイルセーフ機構を挟んでおり、重りが装置の限界変形量に近づくと作動を開始して装置に作用する力を制限し、重りの衝突や損傷を防止する。
大林組は、超高層建物の長周期地震動対策をはじめとするさまざまな地震対策に、ペアマスダンパーを積極的に提案していく方針だ。
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