有機物を使う有機薄膜太陽電池。固く重いシリコン太陽電池では実現しにくい用途に適する。薄く軽いからだ。大成建設と三菱化学はゼロエネルギービル(ZEB)に利用しようとしており、ドイツHeliatekは太陽電池の透明性を生かす用途を狙っている。
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利用しにくい「土地」を有効利用し、発電所に変える。これが太陽光発電システムの強みだ。例えば建物の屋根上。さまざまな発電方式があるものの、屋根を利用するのなら、太陽電池や太陽熱が最も適している。
これをもう1歩進める研究開発が日本やドイツで続いている。壁面や窓の利用だ。屋根だけを使う場合と比べて、太陽電池の設置面積をより広くとることができる。壁面では軽量であることが、窓ではある程度の透明性を保つことが必要だ。このような用途を狙うなら、広く使われているシリコン太陽電池よりも、有機半導体を使う有機薄膜太陽電池の方が適しているのではないかと考えられている。
大成建設は、電気料金が掛からない未来の建物「ゼロエネルギービル(ZEB)」*1)の性能を実証試験で確かめようとしている。省エネルギーはもちろん、再生可能エネルギー、蓄電、蓄熱、エネルギー制御に関する最先端技術を全て導入する計画だ。
戸建て住宅ではなく、都市型のオフィスでZEBが可能かどうかを調べる。地上3階建てのビル「ZEB実証棟」を横浜市戸塚区の同社の技術センター敷地内に立ち上げ、2014年6月の完成を予定する(図1)。ZEB実証棟の建築面積は427.57m2、延床面積は1277.32m2。鉄筋コンクリート造。
*1) ZEBとは、省エネルギー技術や再生可能エネルギー技術を利用して、年間を通じた一次エネルギーの使用量が見かけ上ほぼゼロになる建物をいう。消費エネルギーを減らすことに加え、建物内部で利用したエネルギーと同等かそれ以上のエネルギーを生み出すことにより実現する。
ZEB実証棟では有機薄膜太陽電池をふんだんに使う。「ビルの四方の壁面、約1000m2に発電能力を備えた『外壁ユニット』を取り付ける。10kWh程度の電力を得ることができるはずだ」(大成建設)。外壁の寸法や窓の位置は建物によって全く異なる。規格化されていない。従って、発電に使う外壁ユニットの寸法を注文に応じて変更したいはずだ。「今回のビルの特徴は、外壁ユニットの色や大きさに自由度があることだ。(図1から分かるように)少しずつ大きさが違う」(大成建設)。
外壁ユニットを壁面に取り付ける手法は、ガラス張りのビルの場合と似ている。「ごく薄い太陽電池が表面のガラスと背面のアルミパネルのすき間に入っている。ガラスカーテンウォールと似た手法で取り付ける」(大成建設)*2)。
*2) ガラスを建物に取り入れる手法は年々進歩している。古くは窓の一部に使われるだけだったガラスは、現在、外壁自体を形作るまでに成長した。都心部などに見られるオフィスビルではアルミのフレームを使用せず、正面の壁面が総ガラス張りのものも珍しくない。フレームを使わず、ガラスを建物内部の金物で固定するガラスカーテンウォールだ。
外壁ユニットに入っている有機薄膜太陽電池を開発、製造したのは三菱化学。発電する建物外壁ユニットに有機薄膜太陽電池を用いた世界初の事例だという。
同社は有機薄膜太陽電池で変換効率11.7%を達成したと発表しており、これは同方式では最も高いと主張する*3)。
有機薄膜太陽電池はシリコン太陽電池とはかなり性質の異なる太陽電池だ。変換効率の記録では単結晶シリコン太陽電池の2分の1以下であり、これだけでは勝負しにくい。しかし、数百μm(1mmの数分の1程度)の厚さに作り込むことができるため、軽く薄い太陽電池が実現できる。壁面への設置に適する理由だ*4)(図2)。
*3) 米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)によれば、2014年3月時点で三菱化学の11.1%が最高記録となっている。「今回、外壁ユニットに組み込んだ太陽電池モジュールの変換効率は4〜5%だ」(三菱化学)。
*4) 量産時の製造コスト、製造エネルギーをシリコン太陽電池よりも下げやすいという特徴もある。有機薄膜太陽電池は、ロール状の樹脂フィルム(基材)の上に半導体の性質を持つ有機物を塗布して製造できる。材料を高温で融解させる工程などがないため、製造時に必要なエネルギーを抑えることができ、製造時間も短縮可能だ。
図2から見て取ることができるように、同太陽電池は細長い長方形のセルに分かれており、セルの整数倍のサイズであれば、自由な大きさに設定できる。「外壁ユニットに合わせたサイズに太陽電池モジュールを加工しやすい」(三菱化学)。
外壁ユニットに組み込む形に加工した太陽電池モジュールを図3に示す。「太陽電池モジュールをガラス基板とアルミニウムパネルで挟み込み、3層構造の外壁ユニットとした。有機薄膜太陽電池は色味を変えやすい。今回は意図的に緑色とした」(三菱化学)。重量は1人で持ち上げられる重さだという。施工性を改善しやすい。
三菱化学は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「有機系太陽電池実用化先導技術開発」のうち、「有機薄膜太陽電池の生産プロセス技術開発および実証化検討」を受託している。今回の実証試験で使用した太陽電池もNEDOの委託の一環で開発した技術を利用している*5)。
*5) 三菱化学はNEDOの委託により、2012年度から2014年度まで3年間を使い、太陽光発電システム設計、太陽光発電システム試作、太陽光発電システム設置・施工、実使用環境下でのデータ収集・評価分析の4つに取り組んでいる(関連記事1、関連記事2)。同社は11.7%の変換効率を実現した後、異なる光を吸収する薄膜を重ねたタンデム構造を採用することで、2015年には効率12%を実現し、その後、ハイブリッドナノ材料などを用いることで効率20%以上を達成するという計画を公表している。
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