夏になると各電力会社は節電を呼びかける。特に国内のほとんどの原子力発電所が停止した今夏は、各地で消費者が厳しい節電を強いられている。「ゼロ・エネルギー・ビル/ゼロ・エネルギー・ハウス」は、年間に消費するエネルギー量がおおむねゼロになるという建物を指す。実現すれば、無理に節電する必要がなくなるかもしれない。
ゼロ・エネルギー・ビル/ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEB/ZEH)とは、簡単に言ってしまえばエネルギーを消費しないビル、あるいは住宅ということになる。しかし、実際には内部で人間が活動する限り、まったくエネルギーを消費しない建物を作ることは不可能だ。そこで、建物で消費したエネルギー量を建物で発生させたエネルギー量で相殺することで「ゼロ」としている。
ZEB/ZEHについては経済産業省の資源エネルギー庁が以前から検討しており、2009年には「ZEBの実現と展開に関する研究会」を8回にわたって開催した。その報告書「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現と展開について」は、ZEBを次のように定義している。
「建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ又はおおむねゼロとなる建築物」。
これだけを読んでもピンと来ないという人も多いはずだ。しかしこの文をよく読むと、建物のゼロ・エネルギー化につながるヒントが隠れている。少しずつ説明していこう。
「一次エネルギー」とは、自然界に存在している形そのままのエネルギー源を指す。具体的には石油、石炭、天然ガス、原子力発電所で利用する核燃料、水力、太陽光、太陽熱などを指す。一次エネルギーに対し、電気やガソリン、都市ガスなど、人間にとって使いやすい形にしたものを二次エネルギーと呼ぶ。人間は主に二次エネルギーを利用しているが、二次エネルギー消費量を削減することは、一次エネルギー消費を抑えることにつながる。
「建築物・設備の省エネ性能の向上」とは、建物の外装やガラスの断熱性能を高める、換気しやすい作りにする、空調に積極的に外気を利用する、照明器具などの機器の改良で機器が発生する熱を最小限に抑えるといった工夫を指す。つまり、電力などのエネルギー消費量を最小限に抑えながら快適に過ごせる建物を造るということだ。
「エネルギーの面的利用」とは、エネルギー消費効率を1つ1つの建物単位で最適に制御するのではなく、隣接する複数の建物で形成するエリア単位で最適に制御することを指す。例えばコージェネレーションシステムなどの発電機器は1つ1つの建物がそれぞれ保有するよりも、隣接する複数の建物で共用した方がエネルギー利用効率が高まる。工場が排出する熱を、隣接する病院やオフィスで利用するという形態も考えられる。
「オンサイトでの再生可能エネルギーの活用」とは、建物に太陽光発電システムや風力発電システムなど、自然エネルギーを利用した発電システムを導入し、そのシステムが発生する電力を利用することを指す。先に挙げたような工夫を重ねて、エネルギー消費を抑えたとしても、ゼロにすることはできない。そこで、建物に自然エネルギーを利用した発電システムを設置し、消費したエネルギー量以上のエネルギーを発生させ、そのエネルギーも利用することで、「年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ又はおおむねゼロ」という条件を満たすわけだ。
冒頭で紹介した報告書「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現と展開について」では、ZEBを現実のものにするには長い時間がかかり、およそ20年後を視野に入れた取り組みと考えるべきとしているが、現実にはもっと速いペースでZEB/ZEHの実現に向けて各業界が動いている。
経済産業省は2012年度予算で「住宅・建築物のネット・ゼロ・エネルギー化推進事業」を進めており、ZEB実現に大きく寄与する技術を取り入れたビルの建築主などに補助金を支給している。
住宅向けには「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業」や「住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」も進めている。これらの事業では「住宅が消費する一次エネルギー消費量をおおむねゼロにする」と、ZEB向け推進事業よりも高い目標を設定しており、この目標をクリアする住宅の建築主や施工業者に補助金を支給している。
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