建設、エンジニアリング、インフラ、エネルギー業界では、設備が巨大化/複雑化する一方で、人材不足やコストの増加、プロジェクト管理の複雑化、設備の老朽化や運用高度化などのさまざまな課題が顕在化している。そこで注目されているのが、各プロセスでデータと意思決定をつなぐ「資産ライフサイクル・インテリジェンス」の考え方だ。本連載ではOctave日本法人の日本インターグラフが、AI活用が進む時代に、資産ライフサイクル・インテリジェンスが次世代インフラ運営になぜ必要かを4回にわたって解説する。
全世界で、各種製造プラントやインフラ設備の運転/保守(O&M)は多くの課題に晒されている。特に設備の老朽化と、オペレーターや熟練技術者の高齢化に伴う技術伝承や人材不足への対応が急務となっている。そこで注目されているのが、設計、建設、運転/保全、保護までのライフサイクル全体を通じて、情報を資産として管理/活用する 「資産ライフサイクル・インテリジェンス(ライフサイクル全体を通じたインテリジェントな資産管理)」だ。ここでは次世代の設備運営に、情報を“資産”として管理する重要性を示す。
こうした課題は運転/保全や保護の現場だけでなく、設備の設計・施工段階を含むライフサイクル全体に及ぶ。建設/エンジニアリング業界は、多様化するインフラや複雑化するプラントに対応しながら、より強靭な運用を実現することが求められている。一方で、労働力は逼迫(ひっぱく)し、コスト圧力も依然として高い、相反する厳しい状況にある。
事実として建設/エンジニアリング業界の人手不足は深刻さを増している。一般財団法人のエンジニアリング協会(ENAA)が2025年9月に発行した報告書「2025年度エンジニアリング産業の実態と動向」によると、日本の建設/エンジニアリング業界では毎年、人手不足が業界課題のトップ3に挙げられている。
しかし、解決策は単純に「エンジニアを増やすこと」だけではない。重要なのは、プロジェクトチームが目指す成果と、情報(データ)の分断によって生じる制約とのギャップをいかに埋めるかという点にある。
限られた労働力で複雑化するプロジェクトに対応しながら、安全性やコンプライアンス、高品質の維持が求められており、企業にとって継続的で重要な命題となっている。解決策の1つが、ライフサイクル全体を通じた情報の構造化と共有、活用を進めることだ。情報を資産として適切に管理することで、組織はより確実な意思決定が可能になり、生産性向上にもつながる。
現在では多くの企業がデジタルツールに多額の投資を行っているにもかかわらず、データが複数の環境に分散されているため、一貫した成果を得ることが難しくなっている。
デロイト トーマツがアジア太平洋地域の約900社を対象に実施した調査「2025年建設業におけるデジタル導入状況」によると、建設企業が利用しているデータ環境の中央値は「11」に達している。この数値は、多くの企業でプロジェクト情報が、約11のシステムやツールに分散して管理されている実態を表している。情報の分断は単なるITの問題ではなく、現場では「バージョンの混乱」「作業の重複」「承認の遅延」「手戻りリスクの増加」「問題の可視性低下」といった形で、プロジェクトの生産性や品質に大きな影響を与えていることも明らかになっている。
また、レポートでは、データの統合と連携強化による潜在的な効果も定量化している。具体的には、データ環境を統一することで、1週間当たり約10.5時間を削減できると報告している。大規模プロジェクト全体でみると、エンジニアリングチームやプロジェクト遂行チームの実質的な業務遂行能力の向上を意味する。その分、重要な意思決定や安全計画、施工性の検討、品質保証、ステークホルダー間の調整といった重要業務に、より多くの時間を充てることが可能になる。
さらに、レポートによると、IT導入も加速しており、年間の採用技術数は平均で前年比20%程度増加している。だが、重要なのは技術導入ではなく、それらの技術がライフサイクル全体を支える一貫した情報管理とワークフローで結びついているかどうかだ。
スウェーデンのHexagon(ヘキサゴン)からスピンオフして誕生したOctave(オクターブ)が、2026年に実施した産業AI調査のレポートによると、日本企業は海外に比べてAIの導入規模で遅れていることが明らかになった。また、AIを導入した企業の46%は、主にチャットボットのみの利用、あるいは限定的なパイロット運用にとどまっている。さらに、36%の企業では各部門がAIプロジェクトを個別に運営しており、部門間の連携が十分に進んでいない状況が浮き彫りになった。
調査対象市場の中で、日本は業務運用に関する知識の文書化が最も進んでいなかった。熟練作業員が持つ知見を早期に記録し、AIが活用できる形にしなければ、重要なノウハウが永久に失われるリスクがあると警告している。こうした事態を防ぐにも、資産ライフサイクル・インテリジェンスの考え方が重要となる。
資産ライフサイクル・インテリジェンスとは、設計、建設、運転/保全、保護にまたがるデータを連携し、意思決定へと結び付ける考え方だ。資産やプロジェクトに関する信頼できる唯一の情報源を確立し、その基盤を活用して、計画の改善や調整の円滑化を図るとともに、リスクが発生した際に早期の対応を可能にする。その結果、現場は自らが置かれている状況を把握し、相互の連携関係を理解した上で、洞察に基づいて行動できるようになる。
情報そのものを管理対象の資産として扱い、適切に管理することで、エンジニアは情報の検索や検証に費やす時間を減らし、本来のエンジニアリング業務に集中できるようになる。また、建設工事の現場監督は、スプレッドシートの突き合わせに時間を費やすのではなく、安全と品質の管理に注力できる。プロジェクトマネジメントチームも、レポート作成に費やしていた時間を、プロジェクト遂行の予測やリスク低減に充てることが可能となる。最終的にプラントオーナーへ、運転に必要な質の高いエンジニアリングデータを引き渡し、プラントの運用性や長期的なパフォーマンスの向上につなげられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
人気記事トップ10