建設業界の生産・施工段階では、これまで情報の共有化が注目されることはなかった。現在でも過去の経験や知識、勘に依存した属人化した業務が常態化している。そうした中、構造計画研究所はAIと最適化技術の活用で、旧態依然とした仕事のフローからの脱却を提言する。
構造計画研究所は「Archi Future 2024」(会期:2024年10月24日、TFTホール)のテクニカルフォーラムで、AIと最適化技術を活用し、建設業の属人化した知識や経験、勘からの脱却をテーマに講演した。
前半は大阪支社 副支社長/西日本営業部 建設DX担当 本多健一氏が「建設ナレッジ」を説明し、その後に社会デザイン・マーケティング部 ロジスティクス担当 宇野もも子氏が「建設物流」について現状と活用事例を紹介した。
本多氏は冒頭で、構造計画研究所の設立経緯から現在に至る取り組みを説明。建設業界に起きている変化や社会課題に対して構造計画研究所が果たす役割に言及した。
講演で本多氏が主軸に据えたのは、建設ナレッジの活用だ。建設業界は2025年からBIMによる確認申請の試行が開始し、生産性や品質に対する取り組みが加速するなど、業界として転換期に差し掛かる。人手不足と高齢化への対応も依然として存在している。
特に高齢化では、熟練者が習得した技術や知識が一気に消滅する危険性が指摘されている。対応には、これまで建設会社が蓄えてきた知見や経験を整理し、未来に生かす技術が必要となる。構造計画研究所では、こうした社内に蓄積されている知見をデジタル化したデータを「建設ナレッジ」と呼んでいる。建設ナレッジをベースとしたシステムには、過去のさまざま記録が紐(ひも)付けされるため、データ検索することで目的に応じた出力結果が期待できる。
本多氏は、建設ナレッジの活用に必要な要素技術として、「類似物件の検索による留意点のレコメンド」「図面認識アルゴリズムによる図面情報の活用」「生成AIなどの活用による自然言語での検索」の3つを示した。
類似物件の検索による留意点のレコメンドは、単純に物件を検索する仕組みを超え、ユーザーが調べたい情報にできるだけ関連情報を紐付ける技術。本多氏はイメージとして、免震物件の検索で、過去の類似プロジェクトをリスト化する例を引用した。
プロジェクトのリストは、関連情報の優先度やユーザーの希望順などでソートができる。「いいね」の評価機能もあり、検索結果に対してフィードバックすることでシステムの精度が向上する。
こうした仕組みを構築するには、システムに多様なデータを取り込む必要がある。その結果、さまざま書式のデザインレビューから抽出したキーワードをデータ化したり、過去の事例から関連データを検索してデザインレビューの事前準備をしたりが可能になる。キーワードの抽出では、建築・建設分野で使われる専門用語にも対応できるように言葉の“ゆらぎ”にも応じる技術が導入されている。
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