大林組は、東京都清瀬市の大林組技術研究所内で、セメント系の材料を使用し3Dプリンタにより、国内初の建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得した構造形式を用いた「(仮称)3Dプリンタ実証棟」の建設を進めている。今後は、顧客の多様なニーズに応えるデジタルファブリケーション技術の1つとして、複雑なデザインや強度・耐久性を備えた構造物を実現できるセメント系材料を使用した3Dプリンタ建設の研究を進め、実用化を目指す。
大林組は、東京都清瀬市の大林組技術研究所内で、セメント系の材料を使用し3Dプリンタにより、国内初の建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得した構造形式を用いた「(仮称)3Dプリンタ実証棟」の建設に着手したことを2022年6月10日に発表した。
3Dプリンタは、複雑な曲面などデザイン性の高い形状を作れるだけでなく、材料を現地に運ぶだけで施工が行え、建設時におけるCO2排出量の削減や自動化施工による省人化といった効果が期待されているため、構造物の部材や小規模な建築物の製作に利用する事例が増えている。
しかし、国内で一定規模以上の建物を建設するためには、構造物が建築基準法に適合していることの確認(建築確認)を取得しなければならず、鉄骨や鉄筋、コンクリートなどの指定建築材料を使わない場合に、建築物の安全性を証明するため個別に国土交通大臣の認定が必要となる。
こういった状況を踏まえて、大林組は、鉄筋や鉄骨を使用せずに、3Dプリンタ用特殊モルタル※1や超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」を活用した構造形式を開発し、2019年に国内最大規模となるシェル型ベンチを製作するなど、技術開発を進めてきた。
※1 3Dプリンタ用特殊モルタル:デンカが開発した特殊なセメント系材料を用いたモルタル「デンカプリンタル」。建築物や土木構造物に必要な強度と耐久性を持つとともに、吐出直後でも形状が崩れることなく維持されるチキソトロピー性と呼ばれる性質があり、型枠を使わずに部材の製作が可能。
今回は、スリムクリートの構造形式を利用し、地上構造部材を全て3Dプリンタによって製作することで、日本建築センターの性能評価審査を受け、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣認定を取得した3Dプリンタ実証棟の建設に着手した。
3Dプリンタ実証棟は、プリント範囲内で最も少ない材料で最大の空間が得られるようにし、壁を複数層としてケーブルや配管ダクトを配置することで、通常の建築物と同様に利用することを想定したデザインを採用。
具体的には、部材は基礎と屋上階の床版を除いて、外部で製作し組み立てるのではなく、建設地に3Dプリンタを据え付けてプリントする。床版もあらかじめプリントしたデッキを架設してから、スリムクリートを充填(じゅうてん)する構造形式のため、全ての地上構造部材を3Dプリントで製造した国内初の建築物となる。
さらに、外部階段を設けるとともに、床版の施工後には、3Dプリンタを屋上階へ据え付けて、2階建てを想定した際の立ち上がり壁を模したパラペットの打ち込み型枠をプリントするため、複数階の仕様を達成する見込みだ。
床版は、複雑な曲面形状の部材を製造する3Dプリンタの特徴を生かし、床版に生じる力が分散するように、力の流れに沿った形状の突起(リブ)で補強する他、空調、洗面、照明などの設備も実装するため、壁は構造体層と断熱層、設備層(ケーブル保護層や空調ダクト層)から成る複層構造とする。3Dプリントによる躯体工事と同時に断熱、設備工事の一部を行うことで工期短縮と省力化を実現する見通しだ。
加えて、建築・構造・設備の各設計と施工を連携するために、3次元で製造したモデルを一貫利用した設計・製作フローを構築するとともに、プリント経路の自動生成や傾斜部の積層性、障害物との干渉状況を確認するソフトウェアを開発した。これにより、デザインされた形状に、建築物として必要な情報を付加し製作するまでの時間を短縮する。
なお、設備図を含めた建築確認やスリムクリートを材料とする個別評定も取得し、2022年11月の完成を予定している。完成後は、耐久性、構造、環境性能の評価を行うとともに、3Dプリント技術のPR施設として公開する。
その後、今回の大臣認定取得で得たノウハウを活用することで、複数階や面積規模を拡大した構造物の建設につなげるとともに、将来的には3Dプリンタによる宇宙空間での建設など幅広い可能性を追求していく。
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