東京のある施設内の敷地に建設した12坪ほどの小さなモデルルームは、軽度の脳性麻痺(まひ)を患っている20歳の女性の住まいを設定している。その女性は、できるだけ人の世話にならずに自立を目指し、積極的に生きようとしている明るい女性である。しかし、設計者としての私は、脳性麻痺の女性の気持ちが分からない。女性の気持ちになれるように、何度か施設を訪れ、脳性麻痺の方の症状を見て、シナリオを作成した。しかし、これがなかなか難しい。そこで、その女性になったつもりで、どんな家に住みたいか、詩を書き、それらを、施設の院長先生にも見てもらい、内容を確認し、それを繰り返し収斂(しゅうれん)させて、一つのコンセプトとした。それを要求条件に盛り込み、脳性麻痺の人にとっても介助する人にとっても、快適に生活できる家を設計したのである。
詩の一部を紹介しよう。時代の違いも感じながら読んでいただきたい。詩のタイトルは、「私は二十歳(はたち)」。
私は二十歳(はたち)。
なんだって自分でやりたいのです。
普通の人のように、普通の人以上に、生きていることが楽しいと思うし、
楽しく生きていたいのです。
母は、六十。
年齢より、随分若く見えます。
いつも明るくて、多少若めの服装も良く似合います。
でも、母は、自分の人生を、私にくれているようです。
それはとても嬉(うれ)しいのですが、母にも母の時間をつくってあげたいのです。
私の世話だけで、終わって欲しくないのです。
私は二十歳。
もう大人です。
自立しなければなりません。
ほんの少しだけ介助があれば、なんでも自分でやれます。
やってみたいのです。
………(中略)
明るく、サンサンと陽の当たるテラスで日光浴ができ、
思いっきり手がのばせて、
普通の人以上に普通に、
そして自然な感じで生活ができる、
そんな生き方を支えてくれるような家が、私は欲しいのです。
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