オランダの大学にあるFM学科では、科学的なアプローチを重視することを説明してきたので、頭でっかちな学生が作られるという印象を与えてしまったかもしれないため訂正する。
職業教育としてのUASはより実務的な人財の排出をめざし、知識や理論だけではないバランスの取れた教育を行っている。Saxion University of Applied ScienceのFM学科では、「Hands on(実践的・実務的)・Minds on(知識・理論)・Hearts on(心意気)」というキーワードが使われる(図2)。Hands on・Minds on・Hearts onが、いずれも欠けてはならないとしている。
オランダあるいは、FM学科に限らず欧州のUASと実社会とのつながりは、卒業研究だけでなく、インターシップ制度にもある。特段、オランダのUASでは、卒業研究の前に、1学期が5カ月に及ぶ2学期のインターンシップが法令で義務付けられている。
1回目は1年次後期または2年次前期に、2回目は3年次前期または後期に行われ、5カ月の卒業研究が4年次の前期か後期に実社会に入って実施されることを合わせると、合計15カ月のインターンシップをすることになる。複数回のインターンシップを通して、実社会で、Hands on・Minds on・Hearts onの三位一体を実現する能力を開発していく。
1回目のインターンシップでは、「マネジャーのアシスタントになりなさい」と指導を受けるが、コピー取り(今どきほとんどないかもしれないが)のような補助的な業務ではなく、数週間から1カ月程度のタスクを任されることが多い。
例えば、イベント(企画・準備・運営)、アンケート(設計・実施・集計)、ワークプレイス(観察調査と集計)などである。各業務に必要なスキルは授業で習得し、インターンシップ期間中は大学側のメンターによる支援を受けながら、学生が業務に自ら取り組むことが多い。
2回目のインターンシップでは「インターンシップ先のコンサルタントになりなさい」と伝えられる。まずはインターンシップ先の企業の事業内容や所属する部署の課題を社内資料やマネジメント層に対するヒアリングなどから具体的に抽出する。
次に、課題に対して、アンケートや観察調査を企画、設計、実施、分析し、最終的に派遣先に対して解決策を提言(Recommendation)しなくてはならない。ほとんど卒業研究と同じようなアプローチが必要となる。
企業側は、インターンシップの学生が社内で業務に取り組むことが常態化しており、受け入れに慣れていて、インターンシップの学生がこなすのに程よいテーマを用意して、待ち構えていることが多い。
社員は明確な業務を持っているジョブ型なので、プロジェクト的な課題解決をする時間的な余裕はない。一過的な改善などにインターンシップの学生を使うことで、社員が「働き方改革のプラン作りで残業する」という矛盾も起こさなようにしている。
また、問題を解消するのに、高額なコンサルタントを雇う必要もない。インターンシップの学生に報酬を払う義務は無く、PCやスマホを支給する他、海外など通えない地域であれば住居を提供し、小遣い程度の報酬を支払うことでインターンシップの学生を活用できる。
このようにオランダの教育制度は即戦力を排出するだけでなく、学生が企業と組織の生産性向上に貢献している。学生はチームメンバーの1人として尊重され、業務を任されるため、達成感を得られ自信が持てる。
そして、良いインターシップができるUASに学生が集まるため、Win-Win-Winの関係が形成される。オランダのUASは、日本に比べて学部の定員に柔軟性があり、予定した人数より多く入学させるケースが多い。
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