中国・武漢市で新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い建設された雷神山医院の設計で、フランスのダッソー・システムズが提供する流体力学計算ソフトウェア「SIMULIA XFlow」が導入された。病院内の患者と医療従事者の相互汚染を防ぐため、3次元モデルで空調システムのレイアウト検討などに活用し、14日間での施工が実現した。
ダッソー・システムズは2020年4月9日、新戦略「From Things to Life」を実践すべく、中国の中南建築設計院(CSADI)と協力し、中国・武漢市に設置された雷神山医院の隔離環境下で起こり得るウイルスの拡散をシミュレーションして、評価するための支援を行っていることを公表した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症患者を収容する最大規模の仮設病棟群として建造された雷神山医院は、14日間という短工期で施工が実現したという。
CSADIとダッソー・システムズは、医療施設の換気システム内でウイルスが汚染拡散をする状況をシミュレーションすることで、無計画な換気によって生じるリスクを緩和するため、「3DEXPERIENCE」プラットフォームのシミュレーション機能を採用した。
ダッソー・システムズと戦略パートナーを結ぶCSADIは、雷神山医院の設計を担当。近隣環境へ汚染することを防ぐのを考慮することが極めて重要と見なし、とくに院内の交差感染と、病院が位置する街区、人、環境への影響を最小限に抑える院内のレイアウトを検討した。
実現に向け、ダッソー・システムズは、3DEXPERIENCEプラットフォームで強化された流体解析ソフトウェア「SIMULIA XFlowソフトウェア」を無償提供。
シミュレーションでは、風数の空調換気レイアウトを変えた場合、どのレイアウトが日常の高さが異なる病床の患者と立ち仕事の医療従事者の周辺で、汚染濃度が高くなるかを示し、各レイアウトを比較。最終的に、汚染の拡散が効率的に抑制され、患者と医療従事者の相互感染を防ぐことができるタイプがどれかを見つけ出した。また、現時点の院内外の空気流れや換気システム内のウイルス拡散だけでなく、将来の病院建設に向けた汚染濃度管理の検証も行った。
SIMULIA XFlowソフトウェアはもともと、Next Limit Dynamicsのソフトウェア・ソリューションだったが、2016年12月の買収に伴い、ダッソー・システムズのSIMULIAブランド製品に追加された。SIMULIA XFlowは、格子ボルツマン法を使った新世代の熱流体シミュレーションソフトウェアで、多相流や移動物体を伴う、挙動の激しい流体のシミュレーションを精確かつ堅牢に解析することが可能となる。用途としては、スマートシティーや建築物の空調システム/消防システムの検証をはじめ、自動車の燃費向上や排ガスの抑制、航空機の環境騒音の低減、風力発電の高効率化などで、幅広い産業でユーザーが多い。
CSADI エンジニアリング・デジタル・テクノロジー・センター ディレクター張慎氏は、「CSADIは、雷神山医院の建設期間中に“チャイナスピード”といわれるほどの短工期を証明した。医療関係者を守るため、ダッソー・システムズの先進的なSIMULIA XFlowソフトウェアを使用して、院内の空気分布概要をシミュレーション。負圧である病室内のウイルスに汚染された空気を安全に排出する最適な方法を提案した。SIMULIA XFlowは、外部に排出された物質が、周辺環境に及ぼす影響をシミュレーションすることもできるため、仮設病棟の設計や立地選定の際にも使える」とコメントする。
ダッソー・システムズ 中国拠点のマネージング・ディレクターYing Zhangは、「ダッソー・システムズは、中国企業がテクノロジーを活用してCOVID-19と闘えるよう支援を行うと同時に、パンデミック後の企業の復興と発展にも目を向けて全力で取り組んでいる。当社はモノからヒトまで(From Things to Life)を掲げ、人類の存続は当社にとっての課題であり、このパンデミックに限らず、今後の医療現場においてもCSADIと共に積極的に環境への貢献を果たしていく原動力と位置付ける。プラットフォームを設計、エンジニアリング、製造へと組織的に採用することで、いつでもどこからでもシームレスな協業が可能になる。現在直面しているこの危機的状況下においても、従来では時間を要していた文書ベースの業務に代わり、3Dを使って共同作業に取り組めるプラットフォームを活用して、クラウドベースで体制を構築し、業務を進めている」と話す。
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