或る一時期、JINSは全国展開していくときに、升目什器や白い内装で内装を統一させ、いかに多店舗展開を効率的に進めるかが主眼が置かれていた。吉田氏が手掛けることになった店舗では、そのキーともなる全国展開に向けて、アイコン化されるデザインが求められた。これまでの仕事ではあまり無かった「企業が掲げるビジョンにデザインで応える」ことが、この時点から設計業務の軸になった。
完成した店舗では、標本箱を見立てた陳列棚に、メガネ屋で必須のミラーと、キービジュアルを入れ、棚の下から在庫をすぐ補充できるように効率性にも配慮した。こだわった点は、「メガネ店は、商品を下に置くので、アパレルショップのように上部空間が活用しづらい。そのため、メガネという小さな商品が大量に置かれる場所に、リズムを生む梁(はり)を設け、いくつかの部屋を作る感覚イメージで設計した。(ファサードの)サインも大きくし、店内も赤いカラーのワンポイントを置いた。建築や内装に限定せず、空間の細やかな部分にも介入する立ち位置を、この時から明確にした」。このタイプのJINSショップはその後、期間店と常設店で、デザインコードは守りつつも、それぞれに天井や柱などは若干意匠を変更して30店までに拡大した。
東京の事務所については、最初は2008年東京都渋谷区富ヶ谷に開設し、2014年には同区桜丘町へ移転。その後、社員が増え、手狭になったこともあり、新しい物件を探して、大山町で今の物件に出会ったのを機に即決。併設している2017年4月にオープンした食堂は、初めからクリエイティブに働くための食堂を作る目的で設けた。
食堂の運営は、外部の運営業者を入れずにSUPPOSE DESIGN OFFICEが自前で運営。料理自体も、“おかん料理”をテーマにシェフが栄養バランスを考えて作っている。食事どきにはそれぞれのスタッフに注文を取り、長テーブルに並べて一緒に食事を取っている。自然とコミュニケーションする回数が増え、スタッフ間の距離が縮まったという。
社食堂の意図について吉田氏は、「“細胞からデザインする”が社食堂のコンセプト。設計事務所は大半が、長時間労働、少ない休み、安月給みたいな過酷な環境がデフォルトになっているケースが少なくない。コンビニエンスストアで買って来て、自席のモニター前で菓子パンやカップラーメンで済ませてしまうことが常態化している」。
しかし、「健康で良い感情を持って仕事に向かわなければ、新しい価値を創造することなどできないはず。設計の仕事は、技術だけでなく、細かい気遣いや気配りも大事。食事が原料となって細胞が形成されていくわけで、コンビニ弁当ばかり食べているということは、そのコンビニ弁当が原料になること。同じ釜の飯を食べて、健康な細胞形成を促すことが、今までに無いアイデア、良い会社をつくることにもつながるはず」。
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