AirbnbやLINEのオフィスを手掛けた設計事務所が「食堂」を運営する理由――。“細胞からデザインする”働き方改革Architecture & Interior Design alternatives―Vol.2(2/4 ページ)

» 2019年11月21日 05時05分 公開
[石原忍BUILT]

設計の根底にある「曖昧な結界」

 その後の案件でも、設計領域にとどまらず空間にまつわるものは、できるだけ提案するようにしたという。「(例えば)レストランに行くと、外観や内装は良くても、他に外注してしまうメニューや店舗のロゴ、サインにまでは気が配られておらず、空間全体でみたら不釣り合いなことが少なくない。メニューがラミネート加工されていたりすると、簡易的で寂しい印象になってしまう。2人とも、空間を創るのは元から好きだったので、そういった細かい部分も含めて、おせかっいにもなりかねないが、提案の中に盛り込んでいった」(吉田氏)。

オーストラリア・キャンベラの複合施設「New Acton Nishi」 Photo by Tom Roe
「New Acton Nishi」 Photo by Tom Roe

 転機の一つとなったのが、展示会のディレクターが旧知の仲だったデザインのエキシビションイベント「DESIGNTIDE TOKYO(デザインタイドトーキョー)2008」。東京ミッドタウンのホールが、インテリア、プロダクト、建築、グラフィック、テキスタイル、ファッション、アートなどの各分野のクリエイター作品を展示するショーケースとなったデザインの祭典だ。メイン会場の設計を任された吉田氏と谷尻氏は、建築家としての視点を持ったブースデザイン=展示会で良くあるリースパネルを掲示するのではなく、新しい建築のカタチを模索した。

吉田愛氏

 吉田氏は、DESIGNTIDE TOKYO 2008でのデザインコンセプトについて、「一つの作品に一つの建築をとした。一つの作品を壁で完全に仕切ってしまうのではなく、布で建物の空間を形づくり、ブースがいくつも立ち並ぶことで、都市を見るような感覚をねらった。布は四方を完全に覆ってしまわずに、下に人が通れる開口部を設け、布が光を透過するのと合わせて、スペースを区切りながらも、全てが緩やかにつながっている、物理的に分けるのではない意識として存在する“結界”をイメージした」※1

 通常、立ち上がる建物には、支える構造が必要だが、この作品では、逆止弁のアルミ風船にヘリウムガスを入れて、天井に浮かばせて布素材を吊(つ)るした。石や煉瓦(れんが)を積み上げる「組積造」の表面にも似た布の縫い合わせは、ボランティアのサポーター学生とともに、施工にも参加して完成させた。

 これが起因となり、翌年の2009年にもDESIGNTIDE TOKYOのプロジェクトを引き受けることになった。この年は、透明な緩衝材の外側に、綿をスプレーのりで貼り付け、通常の壁のように物質的な重力を感じさせない、雲を形どったもので空間を曖昧に仕切り、屋内に自然の風景を創出した。

 2年間にわたる東京でのインスタレーションをきっかけに、拠点を都内に構えることを検討した。同時期にクライアントも、これまでの個人オーナーの店舗中心から、企業案件へとシフト。そのなかでも、吉田氏が思い出深いと話すのがメガネショップ「JINS」の店づくりだ。

※1「DESIGNTIDE TOKYO 2008」でのプロジェクト

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