IoT建材については、生活産業事業本部 ビジネスイノベーションセンター マーケテイング部 課長・藤川君夫氏が解説。
開発の背景には、近年、社会問題化している「孤独死」がある。データによると、1人暮らしの高齢者は、2015年に600万人、2035年までには760万人にまで増加することが見込まれている。同時に、独居の高齢者による“孤独死”では、遺体発見までに6割以上が4日以上を要して、亡くなってからも誰にも気付かれないケースは少なくない。
孤独死の現場が賃貸物件であれば、不動産オーナーには原状回復+家賃保証で平均70万円の損害に加え、風評被害などの逸失利益も発生してしまう。このため、入居審査時に高齢者の入居をしぶる家主は多く、単身の高齢者は自分の住みたいところになかなか住めることができない実態がある。これを解決するため凸版印刷では、建材による見守りシステムを国内のITベンダーと協力して開発した。
2018年6月12日〜9月24日に、横浜市の相鉄文化会館敷地内で行われた実証実験では、「床全体にロケーションフロアを敷き、実験前後で被験者の状態変化、意識変化、行動変容について評価・検証を行った。実施期間がサッカーW杯ロシア大会に重なっていたこともあり、TVを見るためにリビングにいる時間が長かったり、朝風呂をしているなどの動きが把握できた」という。
居住者にとっても、一般的に見守りサービスで使われているカメラや赤外線に比べ、常時監視されているようなストレスを感じることもなく、ヒートショックが起きやすい脱衣所やトイレといったプライベートな水回り空間でも導入することができる。現状では、どの床が踏まれたかを特定するのみで、まだ複数人を個別に判別できないため、他のIoT技術との連携も検討していくことが示された。
導入コストは、デバイスが自己発電する仕組みのため、特別な配線工事などは不要で、通常の床材と同様の施工で短納期・低コストで行える。新築のみならず、後付け施工にも対応し、リノベーション物件での採用も見込める。脱衣所やトイレなどの場合、床材一式で25万円から。システム構築費などは別途見積もりとなる。
ロケーションフロアは、睡眠や活動分析などの各種センサー機器と連動した健康状態の見守り、カメラ不要のセキュリティシステム、動線の見える化によるマーケテイングなど、検討中の各種サービスと併せて展開していくという。
IoT建材事業の第2弾以降は、日常生活の中で自然に体重・体脂肪率を取得する体組成計を組み込んだ床材「いつの間にか体重測定」、ディスプレイと化粧シートを合わせて、生活・地域情報を壁の内側から表示する壁材「情報が浮き出す壁」が今のところ予定されている。
凸版印刷では、IoT建材事業全体で、2025年までに約100億円の売上を目標に掲げている。
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