VR/ARが描くモノづくりのミライ 特集

数日で“年単位”の経験値、VRが変える設計者の成長サイクル建築×VR(2)(1/2 ページ)

設計プロセスに積極的にVRを導入しているフリーダムアーキテクツデザインに、複数の視点からVRを活用するメリットについて聞く本連載。VRの導入は、設計者の成長速度を大幅に引き上げる効果をもたらしているという。その理由とは?

» 2017年10月13日 06時00分 公開
[陰山遼将BUILT]

 ソフトウェアの進化やHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の低価格化によって、建築分野へのVR(バーチャルリアリティ)システムの活用が広がりつつある。その導入効果や利点について、デザイン住宅設計を手掛ける独立系設計事務所で、設計業務に積極的なVR活用を進めているフリーダムアーキテクツデザイン(東京都中央区、以下、フリーダム)に聞く本連載。

 前回は「顧客へのメリット」という側面から、フリーダムがVRを導入し始めた背景や、その効果について紹介した。今回は「設計者の視点」という観点で、VRの導入が設計業務に与えた影響やその効果について、前回に引き続き同社の設計事業本部 設計企画部 部長・BIM設計室 室長を務める長澤信氏と、設計企画部 BIM設計室の藤目源紀氏に聞いた。

藤目氏と長澤氏

 前回でも紹介したように、フリーダムが設計にVRを活用しはじめた前提には、BIMの導入がある。同社は2016年10月にBIM設計室を設置。Autodeskの「Revit」を採用し、一部の案件からBIMでの設計を進めている。BIM案件についてはその延長として、HMDで利用できるVRデータを作成し、顧客(施主)がVRで設計内容を体験できるようにしたり、設計者自身がVRで設計内容を事前に確認したり――といったかたちでVRの活用を進めている。BIMデータとVR用のデータの作成も、外注せず設計者自身が行っている。

 長澤氏はこうしたVRの導入が同社の設計者や、その業務環境に与えた変化として、大きく「スキルの習得速度の向上」「設計品質の向上」「業務フローの効率化」の3つを挙げる。

 1つ目の「スキル習得速度の向上」では、特に設計者の育成について大きなメリットを感じているという。長澤氏は「設計者としてのスキルを積むには、実際の現場に足を運び、自分で書いた図面がどのように再現されるのかを見て学び、それを次の設計に生かす―—というサイクルを何度も回していく必要がある。そのため、一般に住宅設計の世界では、学校を卒業してから“一人前の設計者”になるまでに、少なくとも10年程度の時間がかかる」と説明する。

 一方、VRであれば自分の設計したモデルデータを、すぐにスケール感を持って体感することができる。「自分の設計案が実際にはどういったモノ、空間になるのかという、従来では現物を見てからでしか学べなかったことを、VRでは事前に体感できる。図面を書いて現場で見て学ぶという、これまでの場合は1年程かかっていた経験のサイクルが、2〜3日に短縮されるイメージ。しかも失敗しても、何度でもやり直すことができる。これは設計者にとってすごく大きな経験値になる」(長澤氏)

 実際に同社のBIM設計室でVRを活用している藤目氏は、「これまでは、ある程度かたちになった建物を見て、図面のあの部分はこうなったから、次の物件ではこういった提案にしようと考えるのが普通だった。しかし建物が完成する前にVRで確認することで、“次の物件”ではなく、目の前の案件に対してより良い提案ができるようになったというのは、設計者としてはとてもうれしい」と語る。

 このようにVRで事前に精度良く確認ができるのは、設計段階で詳細なBIMモデルを作成しているからだ。これは裏返せば、「ここは現場で合わせよう」といった図面の作成方法は通用しなくなったともいえる。「昔は『ここの高さは現場で調整しよう』みたいなところもあったが、今ではほとんど無くなっている。いい意味でフロントローディングができているが、正直、最初はすごく大変だった(笑)」(藤目氏)

 「VRを前提にすると、設計にごまかしがきかなくなる。これまでは2Dの図面だけでよかったけれど、今は細かい空間のデザインまでをしっかり詰めていく必要がある。当然、スキルの面で最初のハードルは上がるが、それによって設計スタッフがものすごい速度で成長しているのが分かる。その最初の苦労のおかげで、施主にVRで設計案を体験してもらい、一度納得してもらえば、その後の大きな設計変更はほとんどなくなるという利点も大きい」(長澤氏)

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