長澤氏が2つ目のメリットとして挙げた、「設計品質の向上」に大きく寄与しているのが、事前のシミュレーションが可能になった点だという。同社ではRevitのBIMデータを、「Autodesk Live」でVRデータに変換している。その中で、作成したデータに時間軸を加えて、日射の入り方をシミュレーションするといった活用を行っている。
「ある物件では施主から『日の当たるリビングが欲しい』とう要望を頂いていた。しかし、セオリーに従って南側に窓を採っていた当初の設計案でシミュレーションを行ってみると、実際には日光が入らなかったので、変更することになった。この例のように、設計者がいままではなんとなく当たり前だと考えていたことも、シミュレーションをしてみると、そうでないことが分かったりする。施主に対し、その設計が持つ意味や効果を事前に検証し、裏付けがある状態で提案ができるというのは、設計者にとってすごく自信になる」(長澤氏)
また、VRの導入は、業務フローの効率化や、コミュニケーションの面にも良い影響をもたらしているという。これまでは作成した設計案を社内で確認する場合、カットを決めたパースをレンダリングして、それを見ながらディスカッションを行っていた。しかし、「自分が切ったパースのイメージだけでは不十分で、結局また別のカットを数時間かけてレンダリングして……というようなことも多かった」(藤目氏)という。
しかしVRの利用を前提に作成したモデルであれば、その場で抜け漏れなく確認ができるため、意思疎通のスピードも早くなる。「設計はOJTで覚えていくというのが当たり前で、どうしてもマニュアルでは教えきれない部分が多い。業務が忙しいとマニュアルを作りがちだが、忙しい時ほどしっかりと上が見ないと若い設計者は育たない。VRを前提にしたモデルデータであれば、気になった部分をさまざまな角度から自由に確認できるので、チェックする側も判断しやすく、指示も出しやすいので、非常に重宝している」(長澤氏)
こうしたVRの導入を進めたことで、設計者の施主に対するアプローチにも変化が起き始めているという。「図面ではなく、空間を見せるというように提案の内容が変わったことで、今までのような「何畳のリビングが欲しいですか」みたいな聞き方はしなくなっている。広さの要望を聞いて図面を書くだけではだめで、その空間を何に使いたいのか、何を置きたいのか、そこでどんな生活を送りたいのか−−といったように、施主がその空間に求めている体感や価値から逆算しなければ、良い設計ができないということを自然に意識しはじめている」(長澤氏)。
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