建築家・小林博人氏と米田カズ氏に聞く、建築とテクノロジーの関係性BIMで変わる建設業の未来(5)(2/2 ページ)

» 2017年06月09日 06時00分 公開
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被災地や発展途上国の現場から思う”建築家の職能”の変化

ーー建築とテクノロジーの関係性を考えた時に、建築教育を受けていない人でもスキルを身に付けられるのか、あるいはそもそも建築教育は古典的なものだけでいいのかという、建築家の職能に関係した課題が出てくると思います。被災地における仮設建築という特殊な現場は、建築家の職能についてあるべき姿を問われる貴重な機会だったのではないでしょうか?

小林氏 最初のプロジェクトから変わらないコンセプトは、「自分で簡単に作れる」という事。自分で作ることの良さは、作った家に対する愛着が湧くので大切にできる。東北では「建築家は設計して、施工現場に来て、家ができたら終わり。その後の面倒は全く見てくれない」という批判も受けました。建築家の職能はそういうもの、それが当然だと思っていました。でも、被災地のような現場では、作った後にどのように使うかという事も重要で、使う人が「作る」ことを意識することはとても大切です。

米田氏 建築の職能は変化したというより、多様化したと思います。設計者もいれば、プロジェクトマネージャーもいる。地域社会とのコミュニケーションも必要になる。僕の受けた建築教育は古典的だったので、建築家が設計して、職人さんが作って、それを監督するというパターンが一般的でした。ベニアハウスのようなシステムは、作る行為を通して、建築家もそこに住む人たちも、同じ目的に向かって動いていくというのが、一番大事な精神だと思います。

小林氏 素人の方がどれくらいコミットできるかを指標にしているので、そういう意味では、立派な建築教育だと思うんですよね。全く建築を知らない人が、その行為を通して、建築とは何か、どういう意味を持っているのか、なぜそれが必要なのかという事を、身をもって理解できる。その一方で、建築を学んできた人間、あるいは建築家が教えられることもたくさんあります。ある順序で、こういう行程でここまで行うという枠組みが全く無視されるので、その場その場で出てきた問題に対して、自分がどう受け入れて、どう応えられるか、という特殊な能力を問われたんですよ。

日本から3Dモデルを送付し、現地メンバーが合板を切り出す 写真提供: KOBAYASHI MAKI DESIGN WORKSHOP

成熟した都市における建築とテクノロジーのあり方

ーー被災地や発展途上国において建築のあり方を模索し定義する起爆剤として、ITやBIMなど、新しいテクノロジーがあります。しかし、日本のような成熟した都市においてこうした新しいテクノロジーはどのように建築のあり方、やり方を形作っていくのでしょうか?

小林氏 建築の価値観が末広がりになってきていて、さらにそれを可能にしてくれているさまざまな技術も出てきています。例えばベニアハウスプロジェクトを10年前にまともにルーターが使えない状態でやっていたら、かなり限定的な内容になったと思います。クギも使わなくてはいけなかった。アドバンストな技術が、そういった手軽さみたいなものとか、末広がりの環境を許容しているので、新しいテクノロジーが出てきてくれたというのは、大変良かったなと思います。

 また、日本のように、ひとつの文化の中で積み上げて洗練させてきた中では成り立っている仕組みを、世界のさまざまな場所で使おうとしたときに、文化での誤差の考え方、使う材料によって全然違う仕組みが求められる。そういうところでもやりとりがスムーズに進められるという意味で、今後はBIMのようなテクノロジーにも本格的に取り組んでいきたいですね。

米田氏 建築やデザインなど、作る側の人はビジュアル人間ですので、見て分かるということは大きいですね。コミュニケーションの壁を壊す意味で、ビジュアライゼーションは重要です。例えばVRのシステムも安価になって大きく普及すると思います。特に教育に関しては、設計したものを想像するには知識や経験が必要なので、それを疑似体験できれば面白いと思います。

小林氏 今必要とされているのは、意匠と構造を同時に検討できるようなプラットフォームですね。構造エンジニアのプロは、理屈に従ったエンジニアの経験や勘があります。現実には、建築家がその場で決断しなくてはいけないタイミングにエンジニアがいない。材料や加工の条件を入れると、構造的なものも含めて強度を出して、その場でシミュレーションができるのが理想です。

米田氏 BIM用の構造解析のプラグインはありますが、その決定打が欲しいですね。

ーー最後に、「建築とIT」というキーワードについて一言お願いします。

米田氏 近代にたくさん作られた垣根が、いまは無くなろうとしている。それが新しいアーキテクチャの形なんじゃないかなと。もしくは、もともとの姿に戻っているのかもしれません。建築とITを区別する必要はなくて、どちらもツールで、どちらも手法。ゴールは、もっと普遍的なものがあって、そこを考えていくことが重要ですね。

小林氏 全く新しい形態のインスティテューションを作りたい。いわゆる建築の枠組みに押し込められたものではなく、もっと曖昧模糊としたものを形にすることに立ち返ったアーキテクチャをやりたいですね。そこにはデジタルの技術も、今までの建築も、不動産デザインみたいなものも入ってくる、そういう川上から川下までを全部つなぐようなインスティテューションができたらいいなと。そこにはローカルな技術も、ハイテクな技術も、家具のスケールから都市のスケールまでを横断できるような、そういう教育も実践できたらいいなと考えています。

著者プロフィール

濱地和雄(はまじ かずお)オートデスク株式会社 WWSS AECセールスディベロップメントエグゼクティブ

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オートデスクジャパンのAECセールスディベロップメントエグゼクティブ (SDE) である濱地和雄は、建築業界に対する長期的なビジョンを作り上げ、インダストリーリーダーを探訪することでBIMマンデートをドライブ。設計事務所や建設会社、教育研究機関、業界団体など幅広いソースから得た、充実したテクニカル、ビジネス、事業アイディアを促進することで高い評価を得ています。濱地はニューヨーク大学で建築学および都市設計の学士号を得ており、SDEの責務にないときは映画を鑑賞し、東京都内で家族と過ごしています。


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