ワトソンが“声”で日本橋を案内、建物の「データベース化」で実現FM(2/2 ページ)

» 2017年01月27日 06時00分 公開
[陰山遼将BUILT]
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スマホ×ビーコン×(ほぼ)BIMモデルで実現

 音声ナビゲーションのシステムはどういった構成になっているのか。ポイントとなるのが「建物のデータベース」「ビーコン」「スマートフォン」の3つの組み合わせだ。

 利用者の位置の特定にはGPSは利用していない。対象エリア内に設置したBluetooth LE ビーコンにはそれぞれにIDが振られている。このID、つまりは設置した位置と、スマートフォンで受信したビーコンの電波の強度から、誤差1〜2メートルの精度で利用者の位置を特定する。さらにスマートフォン内の加速度センサーやジャイロセンサーで、歩行速度や利用者の向きを検知する。Wi-Fiの活用や、ビーコンを利用しないシステムも考えられるが、今回はコストメリットや精度の観点からビーコンを採用したという。ビーコンの価格は1個当たり2000円、設置費用は3000円としている。

 しかし、このように位置を特定しただけでは、高精度なガイドは行えない。例えば先述した一例のように、視覚障がい者に対して「ここに点字付きのボタンがある」といった設備の情報は、これだけでは提供できない。そこで同システムでは、清水建設が開発した建物の空間情報データベースを組み合わせている。

音声ナビゲーションシステムの構成(クリックで拡大) 出典:日本IBM他

 この空間情報データベースは、有効幅員、経緯・緯度、勾配、床や壁の仕上、段差、階段、手すり、エレベーターなどの情報を統合しており、いわば設備情報などを統合したBIMモデルのようなデータとなっている。この空間情報データベースに、高精度な音声ガイドに必要な空間や設備の情報を盛り込んだ。

 2014年にオープンしたコレド室町だが、建設時にBIMモデルなどは作成していなかった。そこで施工を担当していた清水建設は、今回保有者の三井不動産から図面などの提供を受け、データベースを作成した。なお、国土交通省の「歩行空間ネットワークデータ」にも準拠している。

 「単純にBIMモデルのように作成すると、必要以上にデータ容量が大きくなってしまう。また、こうした一般向けに公開するサービスの場合、非公開とすべき場所や情報もある。そこで今回のサービスに必要な内容を逆算し、情報を取捨選択してデータベースを作成した。現在社内ではBIMモデルからこうしたサービス向けの情報データベースを作成する取り組みも進めている」(清水建設 設計本部 副本部長 執行役員の大西正修氏)

 清水建設はこの空間情報データベースの作成の他、ビーコンの設置など、位置情報の取得に必要な屋内測位インフラの構築を担当し、三井不動産はコレド室町の提供、店舗情報や施設情報の提供を行った。日本IBMは屋内測位に必要な電波データの計測や、アルゴリズム開発、コグニティブ・アシスタント技術を活用したスマートフォンアプリの開発など担当した。

 清水建設と日本IBMは、視覚障がい者などが街や施設を快適に利用できるよう、アクセシビリティの向上を目的に、2015年から音声ナビゲーションシステムの共同開発に着手。これまでは清水建設の技術研究所内などで実証を重ねてきた。今回の実証実験では、一般の参加者に利用してもらい、サービスの精度や使いやすさなどに関する意見を募る。その結果をシステムに反映させ、改良を図る考え。

 国内では2020年に向けて訪日外国人の増加なども見込まれている。両社は今回の実証を踏まえ、空港などの不特定多数の人が集まる施設向けに、屋内外音声ナビゲーション・システムの導入を目指していく方針だ。

車いす利用者や、視覚障がい者であり実証実験にも参加する日本IBMのフェローの浅川智恵子氏自身によるデモも披露された(クリックで拡大)
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