フィジカルAIを現場の「当たり前」に 燈が社会実装を加速へフィジカルAI

燈は建設業や製造業の現場で培ったAI開発の知見と独自開発のシミュレーション基盤「Melchior」を軸に、現場の課題を解決するフィジカルAIの社会実装を加速する。フィジカルAIが現場で当たり前に浸透してる状態を実現し、日本の生産力を次世代へ引き継ぐことを目指す。

» 2026年07月30日 17時31分 公開
[黒岩裕子BUILT]

 燈(あかり)は、建設業や製造業の現場で培ったAI開発の知見と独自開発のシミュレーション基盤「Melchior(メルキオール)」を軸に、仮想の建設現場/工場でのAIの学習から、実際の現場へのロボットの実装までを一気通貫で支援する体制を構築している。メーカーや形状の異なるあらゆるロボットを同一基盤上で制御し、ユーザーの既存資産を生かしながら、低コストでフィジカルAIの実装を実現する。2026年6月18日、東京都内でプレスセミナーを開催し、フィジカルAIの取り組みについて説明した

ロボットアームがテーブル上のボルトなどを認識し、マスの中に入れるデモンストレーションを披露した 筆者撮影

現場に深く入り込み、「暗黙知」を埋め込んだ燈のフィジカルAI

 今回の発表に先立ち、燈は2026年3月、三菱電機とフィジカルAIの協業に関する戦略を発表し、デジタルツインを活用した工場内物流AIオーケストレーション(統合制御)の実証を進めていることなどを明らかにした。

燈 DX Solution事業本部 DX Consultingグループ Physical AI Counsultant 石本幸暉氏

 燈 DX Solution事業本部 DX Consultingグループ Physical AI Counsultant 石本幸暉氏は「三菱電機との協業により、燈のフィジカルAIは工場や建設現場の全体最適化を支援するというイメージを持たれているかもしれない。しかし燈の強みは、現場ノウハウと融合したフィジカルAIの開発にもある」と強調する。

 燈は2021年の創業以来、建設業を起点に、製造業など幅広いものづくり産業でDXやAIを活用した現場課題の解決に取り組んできた。これまでにさまざまな企業と連携し、現場のノウハウをAIに実装してきた。

 大東建託とは、10万枚を超える住宅現場の画像データを学習した工程内検査写真のAI自動分類システムを開発し、90%を超える自動分類率で写真分類や添付に関わる作業時間を50%削減した。また、インフロニア・ホールディングスとは、スマートフォンを車両に取り付けて走行するだけで道路の異常を検知する、画像認識AIによる道路構造物点検システムを確立。戸田建設とは、AI点群モデリング技術と経路生成アルゴリズムを活用し、陸上風力発電部材の輸送時に経路の干渉をシミュレーションで確認できるシステムを開発した。

 石本氏は、「AIモジュールの開発はシステムを導入しただけでは終わらない」と説明する。担当者との対話を重ねることで現場へ深く入り込み、「真に解決すべき課題は何か」を洗い出す。その上で現場データを用いてAIを継続的にチューニングし、半年から1年程度をかけて1つのAIモジュールを完成させる。

 こうした地道な取り組みを重ねる中で、燈は用途ごとの多様なAIモジュールを蓄積してきた。石本氏は「当社が特に重視しているのは熟練者の持つ知見やノウハウといった現場の暗黙知だ。暗黙知を埋め込むことで、現場の課題を解決できるAIモジュールを積み上げてきた。フィジカルAIが現場の目や耳となり業務を代行するには、こうした質の高いモジュールが不可欠で、これこそが燈の価値だ」と強調した。

メーカーや形状の異なる複数のロボットを同一基盤上で制御

 ただし、モジュールを開発するだけでは現場実装には至らない。実装を支える基盤となるのが、現実空間を高精度にデジタル化する燈独自のシミュレーション基盤Melchiorだ。燈のAIモジュールと点群や3Dモデル、図面などの現場データを組み合わせることで、多様なソリューションを構築できる。

現実空間を高精度にデジタル化するシミュレーション基盤「Melchior」

 Melchiorでは、建設現場や工場を再現した仮想空間上でAIを学習させることで、実際の現場に入る前にデジタル上で数千パターンの動きを試行できる。重機搬入経路やロボットの自律走行の動線などを検討する際も、シミュレーションで事前に経路や干渉を自動検証可能だ。さらに、スマーフォンやハンディスキャナーなどで取得したデータを基に、3Dデータをデジタルツイン上に構築できる。デジタルで検証した機能や一連の動作はそのまま実機へ展開可能だ。現場での調整を最小限に抑えながら現場の課題解決を支援する。

 また、Melchiorはメーカーや形状の異なる複数のロボットを同一基盤上で制御できることも特徴だ。石本氏は「ヒューマノイドも四足歩行ロボットも、双腕ロボットも産業用アームも、同一基盤から指令を出して動かせる。ユーザーの既存の設備を生かして、コストを抑えながら現場の知能化を実現できる。当社が目指すのは、現場実装力とハードの汎用性を両立する独自のポジションだ」と説明した。

メーカーや形状を問わず同一基盤で複数制御が可能

フィジカルAIの現場浸透を目指す

 燈はフィジカルAIによって、「全ての現場データと知見/設備が連携し、最適化される現場」の実現を目指している。

 石本氏は「現実空間の装置や設備から収集したデータをデジタルツイン上に蓄積して学習に活用し、ロボットが設備と連携しながら作業を担う環境を実現したい」と将来像を示し、「国内では現場の担い手が不足し、現場の暗黙知やノウハウを継承できない状況が生まれている。燈は日本の生産力を次世代に引き継ぎ、ものづくりの基盤を守ること。それを実現するために、フィジカルAIが特別なものではなく現場に当たり前に浸透している状態を目指していく」と語った。

ALTALT ロボットアームが搭載カメラでネジや箱を認識し、位置が変化しても対象物を把持して所定の場所へ搬送する

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