ICT施工を内製化し、社内で標準化するには、経営者の投資判断だけでなく、現場の協力も欠かせない。吉川氏によれば、特に中小建設業では、ICTの活用に積極的でない企業もまだ多いという。「現場がICT活用を進めたくても経営者が投資に積極的ではなかったり、逆に、経営者が投資を決断して機器を導入しても、現場が使いこなせずに活用されていない例も聞く。当社でも最初は、現場側から全く抵抗がなかったわけではない。だが、昔から新しいものを好んで取り入れる風土があり、比較的スムーズに導入が進んだ」
新しい技術を社内に浸透させるためのカギの1つが、機器を実際に使用する現場への細やかな伴走支援だ。金杉建設には、ICTに関する現場の困りごとをサポートする「インフラDX推進室」がある。部署の前身は2018年4月に設立した「i-Construction推進室」で、当初からICT活用に関するソフト面、ハード面の支援を一手に引き受けてきた。
金杉建設の社員は、機器やソフトの使用中に不明点や困ったことがあっても、インフラDX推進室に問い合わせれば、いつでも適切な操作方法や対処法などについて回答を得られる。必要があれば、実際の現場で使い方についてレクチャーを受けることも可能だ。吉川氏は「インフラDX推進室の社員には機器やソフトの使い方を積極的に学んでいく姿勢があり、現場も『何を聞いても回答してもらえる』と信頼を寄せる。この環境が、全社的なデジタル技術の浸透に効果的だった」と振り返った。
現場ではどのようにICT技術が活用されているのだろうか。その一例が、丁張り(ちょうはり)作業の削減だ。建設や土木の現場では通常、工事を始める際に、木の杭や糸を使用して施工対象の高さや位置を示す丁張りを設置する。時間と労力のかかる作業だが、ICT施工では、ドローンや3Dレーザースキャナーで作成した3D設計データをICT建機に読み込ませることで、丁張り作業が不要になる。工期の短縮や省人化により生産性を向上するとともに、建設機械と作業員の接触事故のリスクがなくなり、安全性も向上する。
金杉建設がインフラDX大賞を受賞した工事は、埼玉県越谷県土整備事務所が発注した、八潮市の「柳之宮橋」架替えに伴う迂回路整備事業だ。施工場所は民家や大規模工場に隣接し、普段から交通量が多く、慢性的な交通渋滞区間だった。工事の影響で、沿道の土地利用者や住環境への環境負荷が生じることが懸念されており、影響を最小限に抑えた施工が求められていた。工事の円滑化に向けて、金杉建設ではICT施工や3次元設計データの作成に取り組んだ。
金杉建設がこの工事で検証した内容の1つが、これまで活用が進んでいなかった、小規模土工事でのICT施工の可能性だ。施工土量300立方メートルの土工事において、0.25立法メートル級バックホウを後付けシステムでICT建機化した。また、排水構造物の据付けには自動追尾測量機器を活用し、丁張りなしでの作業を実施。市街地では、駐車場や工場へ出入りなどの、施工環境の負荷軽減に効果的であることが分かった。
ICTの活用は、施工中に発生する不具合の早期発見も可能にする。管理者から入手した埋設図から各種埋設物を3Dモデル化し、事業全体の支障箇所の発見や、施工上の問題点を事前に抽出した。3Dモデル化により、手戻りを防ぐ効果があり、事業に関わる関係者の協議や合意形成も効率化できる。
「ICTをうまく使いこなせば、想定外の事態による工事の中断や、地域住民とのトラブルを未然に防止できる効果も見込める」として、金杉建設では現在、受注した工事について、ICT指定工事やICT受注者希望型はもちろん、それ以外の工事でもICT施工をほぼ標準化している。
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