国土交通省のBIM/CIM推進委員会委員長を務める大阪大学大学院 工学研究科 教授 矢吹信喜氏が「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023」の事前防災/減災のための国土強靭化推進セミナーに登壇。日本のBIM/CIM活用の現状の課題を整理し、その本質を実現するために、何が必要かを解説した。
国土交通省のBIM/CIM推進委員会委員長を務める大阪大学大学院 工学研究科 教授 矢吹信喜氏が、「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023」(会期:2023年7月26〜28日、東京ビッグサイト東展示棟)の事前防災・減災のための国土強靭化推進セミナー「コンストラクションステージ」に登壇。「建設分野におけるBIM/CIMの役割と展望」の演目で講演した。
講演の冒頭で矢吹氏は、日本の建設業界が抱える課題の1つに「労働生産性の低さ」があると指摘し、この課題への国の取り組みとして、2008年に設立した「情報化施工推進会議」から、2016年のi-Construction、2020年のインフラ・デジタル・トランスフォーメーション(インフラDX)、そして2023年4月のBIM/CIM原則適用までの流れを振り返った。
こうした施策に対して矢吹氏は、「3次元モデルによる可視化、ミスの減少、数量計算の自動化、干渉チェックの自動化、ICT土工への利用、遠隔臨場の実現といったBIM/CIM活用のメリットが広く認識されるようになった」と評価しつつ、BIMの本質は「3次元モデルを共有しながら、設計業務を前倒したり(フロントローディング)、同時並行的に進めたり(コンカレント・エンジニアリング)して、設計、施工、維持管理の各フェーズを統合(インテクレーション)し、プロセスを全体最適化すること」だと述べ、その点からはまだ満足すべき状況ではないと強調した。
フロントローディングやコンカレント・エンジニアリングを設計に取り込むためにはどうすればいいのか。矢吹氏は、3次元モデルをフェーズ間あるいは異業者間などで共有するための「3次元プロダクトモデルの標準化」と、フェーズをまたぐ際にデータを捨てないことが重要だと説く。そのうえで、BIMの本質的活用の障害となっている設計と施工の分離発注方式や工区割、元請け、下請け、孫請け、ひ孫請けといった設計者と施工者の重階層化といった日本の公共工事の代表的な進め方が持つ課題をブレークダウン(細分化)して洗い出し、それぞれを改善していく必要があると述べた。
矢吹氏は、取り組むべき課題の1つは「詳細設計の完成度が低いこと」を挙げる。公共土木工事プロジェクトでは、設計者は詳細設計図書を「予定価格を決めて工区割りをするためだけに作成するもの」と考えがちで、誰もその図面でそのまま施工できるとは考えていないという業界の“常識”が、生産性を下げる要因になっている。
矢吹氏は、「土木工事では、詳細設計はあえて完成度を低い状態にして、施工が始まってから本当の意味での詳細設計をしながら現場で合わせるという進め方が一般的。たとえ詳細設計の完成度が低くても、日本の建設会社や協力会社の作業員はレベルが高いため、何とか期日までに完成させてしまうため、これまで問題にされてこなかった。しかし多くの手戻りや設計上のミスがあり、そうした問題に熟練作業員が対応し、コストも発生している。彼らもあと10年くらいで引退してしまうので、その後に続く若手人材は不足してしまう。この点からも、詳細設計の完成度を上げなければならない」と話す。
矢吹氏は、公共土木工事で詳細設計の完成度を向上させる方法として、「アーリー・コントラクター・インボルブメント方式(ECI:Early Contractor Involvement)」「詳細設計付工事発注方式」「デザインビルド方式(DB:Design-Build)」「コンストラクション・マネジメント・アット・リスク方式(CM@R:Construction Management at Risk)」の4種類を示した。
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