今枝氏は、地震が起きて2〜3分で判定が得られれば、その後の迅速な判断にもつながると話す。「被災建物の安全性は通常、建築士が講習を受けて登録する“応急危険度判定士”が調査して判定する。ただ、大規模災害発生時は、応急危険度判定士がすぐに建物の安全性を確認することは非常に困難といわれている。東日本大震災のときは、今いる建物の安全性が分からず、館外に退避し、帰宅するという行動がとられたことで、大量の帰宅困難者が生まれた。NSmosのレポートで、自分の所在している建物の安全性を確認できれば、そこにとどまることも選択肢に成り得る」。
裏付けるように、2018年の北海道胆振東部地震では、NSmosで安全確認した札幌の中心部に位置する複合施設「さっぽろ創生スクエア」は、帰宅困難者のための一時滞在スペースになったという。
NSmosのサービスには、地震記録データと設計時の構造解析モデルを用いた2次詳細分析がオプションで用意されており、被災した建物の補修計画にも役立てられる。「被災建物の規模が大きいと、どこを重点的に調査すべきか絞り切れず調査範囲が広がり、時間もコストも膨らむ。NSmosの2次詳細分析を用いれば、調査前に被害箇所を特定できるため、合理的な調査計画を立案でき、調査時間も費用も大幅に縮減できる」(今枝氏)。
NSmosの提供開始から約10年――。導入した建物は、年平均7〜8棟のペースで増え続けている。2018年に国土交通省が「防災拠点等となる建築物に係る機能継続ガイドライン」を策定したこともあり、近年は、防災拠点となる庁舎や病院などへの採用も進んでいる。NSmosの今後について今枝氏は、「空港など大勢の人が集まるインフラ関連施設にも提案していきたい」との意気込みを語った。
NSmosの利用には、1棟あたり1千万円程度のイニシャルコストと、年1回の定期メンテナス費として30〜40万円程度がかかる。他に、専用PCの導入や更新などの費用も、利用者側が負担する。導入までの期間は、建物の規模にもよるが、およそ半年。構造計算書や必要図面があれば、日建設計以外の設計事務所が手掛けた建物でも対応可能だという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.