建設費や工期の削減には、フロントローディングが必須となる。しかし、フロントローディングはBIMソフトを単にツールとして使うだけでは、到底実現できない。では何が必要かと言えば、発注者が自ら情報要求事項のマネジメントを行い、設計変更を起こさない仕組みを作り、意思決定を早期に企図しなければならない。これこそがBIMによる建設生産プロセス全体の改革につながる。今回は、現状の課題を確認したうえで、情報要求事項とそのマネジメント、設計段階でのバーチャルハンドオーバー(VHO)によるデジタルツインによる設計・施工などを解説し、発注者を含めたプロジェクトメンバー全体でどのように実現してゆくかを示したい。
後編ではまず、ステークスホルダー全体の発注組織がマネジメントする情報要求事項とはどのようなものかについて、ISO 19650-1を参照しながら解説してゆく。
ISO 19650の情報要求事項に触れる前に、ISO 9001の顧客要求事項について再確認したい。要求事項とは、「明示されているか、通常暗黙のうちに了解されている、または義務として要求されているニーズや期待」。そして、顧客要求事項とは、「製品あるいはサービスに関する顧客の要求事項」である。ISO 9001の目的は、「顧客の要求する製品、サービス(顧客要求事項)」を提供することで、「顧客に満足してもらう事(顧客満足)を目指すこと」。建物において、設計では設計内容、施工では建築物、運用では維持管理運用サービスなどにあたり、これに対し顧客に満足してもらうことが重要である。
ISO 19650では、顧客要求事項ではなく、発注組織による情報要求事項という言葉で表されている。ISO 9001も顧客重視の観点で作られた規格だが、それに取り組む企業を中心とした品質マネジメント規格であるため、ISO 19650とは少し性質が異なるが、顧客の要求する事項(情報要求事項)に対し、顧客の満足する製品やサービスを提供するという目的は同じだ。大きな違いは、ISO 19650は、建物を作る発注者のために、多くの企業がそれぞれ異なる役割を果たす複雑な企業の集合体による仕組みであることと、BIMという建設業界の新しい仕組みを、この集合体に適応させようという点にある。
この表を建設業界向けに、ISO 19650の概念を少し入れると下図のようになる。左側の顧客要求事項は、「密接に関係する利害関係者のニーズ及び期待」という内容も踏まえて、「情報要求事項のマネジメント」となる。また、設計・施工における情報マネジメントも、結局はPDCAのプロセスなので、それに合わせて記載してみた。ただ、ここで少し違うのは、建設業界は設計が終わったら施工へ、施工が終わったら運用維持管理へと情報が渡され、活動が継続されてゆくので、PDCAは最終的に次工程のプランに受け継がれる形とした。
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