大林組は、対象物の運搬ルートを自動で生成し揚重と運搬作業を実施する「クレーンの自律運転システム」を開発した。同社は、三重県伊賀市で計画を進める「川上ダム本体建設工事」で、クレーンの自律運転システムをCIMデータと連携させた「任意点間の連続自律運転」を実証し、有効性を確認している。
大林組は、対象物の運搬ルートを自動で生成し揚重と運搬作業を実施する「クレーン自律運転システム」を開発したことを2021年9月30日に発表した。
建設業では、生産性向上や働き方改革を実現するために、ICTを活用した施工やプロセスの変革が求められている。
上記の状況を踏まえて、大林組では、以前から、建設工事現場で使用される建設機械全体の自律運転化に向けて、「バックホウ自律運転システム」や「タワークレーンの自動運搬システム」などを開発してきた。こういった取り組みの一環として、クレーン運転で、運搬したい目的地点の位置情報を指定するだけで、AIによって最適な運搬ルートを自動生成し、その運搬ルートに沿って自律運転するクレーン自律運転システムを開発した。
クレーン自律運転システムは、事前に取得した敷地全体の点群データに、リアルタイムな情報としてクレーンに取り付けた「3D-LiDAR※1」で、現在の点群データや完成図となるBIM/CIMデータを組み合わせ、クレーン周辺状況の3Dマップ情報を時間軸で把握する。
※1 3D-LiDAR:レーザー光を照射して対象物までの正確な距離を測定し、遠方や周辺の状況をリアルタイムかつ立体的な点群データとして認識するセンサー機器
そして、操作者が目的地点を指定するだけで、3Dマップ情報をベースにシステムが吊(つ)り荷の形状や障害物の有無から最適な運搬ルートを自動生成し、運転を開始する。運転中も点群データを取得しているため、吊り荷に障害物が接近した際には減速や停止、運搬ルートを再作成するといった安全性能を備えている。
具体的には、クレーンに取り付けられた3D-LiDARによる点群データと、AIによる物体検知技術によって、吊り荷の形状や周辺の作業員と障害物を検知する。システムは、運搬ルートと吊り荷の形状に応じた安全領域を自動で設定し、最適な速度で運転を行う。運転中に、安全領域内で作業員や養生ネットなどの障害物を把握した場合は、クレーンを減速・停止させるため、安全性に優れる。
また、運転中にシステムが吊り荷の揺れを検出すると、クレーンが自動で動きを抑制し揺れを抑える。加えて、荷下ろし時は、ジャイロ効果を活用した吊り荷の方向制御装置「スカイジャスター」を用いて、カメラ映像からのAI認識技術、GNSSによる方位計測、BIM/CIMデータを基に、吊り荷の向きを自動制御する。
吊り荷の荷下ろし後は、システムから自動玉掛け装置へ指示を送信することで、吊り荷に取り付けられていた玉掛けワイヤを自動で外すこともできる。前述の一連作業を自動化したことで、吊り荷の揺れを防ぐための人力作業や玉掛けを外すための高所作業などが不要となり、安全性がアップしている。
システムの操縦に関しては、オペレーターが、PCやタブレットの専用画面で作業指示を行えるため、常時クレーンを運転席で操る必要が無く、モニターは1画面に集約しており、クレーンの稼働状況を共有し確認可能な環境さえ提供すれば、場所を問わず制御室や在宅での操作にも対応する。
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