大成建設は、RC造の高層住宅を対象に、地震エネルギーを効率的に吸収するオイルダンパーと間柱の集約配置により構築されたフレームを設置するだけで補強が可能な構法「T-レトロフィット制振」を開発した。新構法は、今後発生が懸念されている巨大地震による長周期・長時間の地震動に対して優れた制振効果を発揮する。
大成建設は、建物中央部に吹き抜け空間が配置されたRC造の高層住宅に対応する耐震改修構法「T-レトロフィット制振」を開発したことを2021年9月2日に発表した。
国土交通省は、2016年6月に公表した「南海トラフ沿いの巨大地震に関する通知」で、一部地域における新築高層建物の設計を対象に、従来の想定を大きく上回る地震動に対する検討を課した。一方、国内では、既存の高層建物でも巨大地震への安全性の再検証や必要に応じた補強などの対策が望まれている。
解決策として、これまで建物の耐震改修では、既存の柱や壁を強化する方法、新たにブレース(建物変形を防ぐための補強材)とダンパー(地震等の揺れを軽減・減衰させる装置)を設ける手法などが存在した。
しかし、高層住宅では、建物規模が大きいために、上記の設置工事が大掛かりになることや居住者の専有部での工事が難しいなどの課題があり、耐震改修の実施が困難な状況にあった。
そこで、大成建設は、建物の共用部に当たる中央部の吹き抜け空間を持つ高層住宅に対し、地震エネルギーを効率的に吸収するオイルダンパーと間柱の集約配置により構築されたフレームを設置するだけで補強が可能なT-レトロフィット制振を開発した。
T-レトロフィット制振では、既存建物の梁(はり)側面から吹き抜け空間に張り出した片持ち梁と階層をつなぐ間柱により頑強なフレームを構築し、このフレーム内に地震などの揺れを抑えるオイルダンパーを設ける。
さらに、専有部での工事が不要なため、居住者が退去せずに改修工事を実施可能で、耐震性の向上を図れる。そして、新たに構築されたフレームは、新設した片持ち梁により既存建物と各階を接続する構造となっており、地面との接触が必要なく、建物ロビーや低層部に影響を与えずに施工を行える。
新構法では、長周期と長時間に渡り繰り返す地震動に対しても有効に作用するオイルダンパーを活用する。オイルダンパーを上記の頑強なフレームを介して3〜5層にまたがるように配置し効率よく地震のエネルギーを吸収。
大成建設は、T-レトロフィット制振の有効性を調べるために、高さ約130メートルのRC造既存高層建物で得られるT-レトロフィット制振の効果を検証した。結果、T-レトロフィット制振の採用により、南海トラフ地震で発生が予想される最上階で生じる最大約1.3メートルの揺れを30%以上低減し、地震の揺れを90センチ以下に抑えられることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.