価格構造メソッドは、工事内訳書を作成する際の考え方を説いている。工事内訳書は契約書の一部として取り扱われるものであり、減価償却は、工事内訳書に基づいて処理することになる。そのため、工事内訳書は「証憑資料」という位置付けとなる。
工事内訳書は契約書のため、私的自治の原則が適用される。私的自治の原則とは、私人間の契約などは、自由意志の決定に任せ、国家が干渉してはならないということである。従って、価格構造メソッドを使用した証憑資料に関して、明確な法律違反がない限り、国家(行政)が横やりを入れることはできないのである。
もし価格設定に国家(行政)が口を挟むようであれば、資本主義ではなく計画経済を行ってきた社会主義となってしまう。M.エルマン著『社会主義計画経済』(1982/岩波現代選書)によれば、「“計画”経済とは計画目標を達成する経済、と解する向きがある。ソ連では、しかしながら、“計画化”という標識は、経済活動が上からの指令に従って進行することだ、と考えられている」と述べている。
つまり、価格は、上からの指令によって決定することを意味している。わが国では、社会主義のようなことはないと考えるが、コロナ対策などで財政は緊迫しているため、極端な価格構造メソッドの比率が普及した場合は、法律ではなく通達で拘束しようとする可能性がある。
しかし、通達は国民が従うべき必要がないものである。それなのに、なぜ通達が税法の世界でまかり通っているのであろうか。
税金の課税や徴収については、必ず法律に基づいて行わなければならないとされており、これを租税法律主義という。租税法律主義は、憲法84条で「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定されている。では法律とは、1つなのか?法人税法であれば、法人税法のみで規定されているのか?
減価償却は、法人税法によって規定されているが、詳細な部分については政令、省令に委任することになる。減価償却の核となる償却方法、法定耐用年数の償却率つまり償却期間などは、本法には明記せずに、政令・省令において詳細が規定される。政令・省令の変更に国会決議は必要ない。すなわち、政令・省令を変更するだけで増税することが可能となり、以前に言及した「資本的支出の変更」がこれに該当する。
また、「通達」は法律ではなく、上級行政機関が下級行政機関に対して、その職務権限の関係性に基づいて発する命令のことをいう。そのため、一般国民には関係のないことだが、税法の世界では「通達」が法律のごとく扱われている現状がある。
理由は通達通りに行っていれば、調査のとき問題が起きないからである。税理士が通達に固執するのは、トラブル回避のためだといえる。また、法人税法などの税法が行政法の一部であるという認識が欠如していることも大きな要因といえよう。税務調査があっても慌てる必要は無く、適正手続保障を知っておくことが肝要なのだ。
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