本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。最終回の第7回は、価格構造メソッドを取り巻く法律関係で押さえておきたいポイントを解説する。
前回の第6回では、価格構造メソッドが簡略的に言えば「利益を付け替える」ことである点について言及した。そして建設会社の利益を建物附属設備勘定に付け替えし、建物勘定と建物附属設備勘定の比率を50:50にすることによって、初期投資の半分を15年で償却できることを説明した。最終回となる今回は、この価格構造メソッドの法律関係を考察していく。
利益の付け替えについては、前回ダンサーの例を用いて、ブランド洋服店が一切損をせず、またダンサーも税金が少なくなって喜ぶことを説明した。
「利益の付け替え」はダンサーの納税額を低く抑える効果があるので、これについて違法ではないかと言う人がいる。しかし、そのような意見を言う人に対して「企業の利益は、法律によってどこに乗せろと、条文で決まっているのか?」と尋ねてみたい。
企業がどこに利益を乗せるかは、企業の裁量に任されている。もちろん、利益も企業が欲しいだけ製品・商品・サービス価格に含めることが可能だ。企業が存続する目的は、利益を得ることであり、好きなだけ利益を追求することができる。これを“営業の自由”という。仮に企業が利益追求を抑止されるようなことがあれば、企業の人権が侵害されると言っても過言ではない。実は、営業の自由は、憲法によって担保されている。
憲法22条1項「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」の「職業選択の自由」では、企業による営業の自由と解釈でき、憲法で営業の自由が保障されていることになる。つまり、利益の追求(利益の付け替えを含めた価格設定)は自由に行っていいことになる。
ちなみに、コロナ禍での営業の自粛は、憲法における営業の自由の侵害に相当するはずだが、この点について多くの法律家は口をつぐむ。その理由は、営業の自由は、言論の自由などと異なり、裁判所が判断できない領域だからだ。つまり、憲法で保障されながら、法律で裁けない領域といえる。
では仮に、税務調査で「利益の付け替え」が違法だと言われたら、憲法22条1項を持ち出して、憲法は営業の自由を保障していて、利益をどこに乗せようと企業の自由ではないかと反論し、税務職員の意見こそ、憲法違反であると高飛車に言っても良いのだろうか?
答えは、NOである。違憲性は、表現の自由や学問の自由などの精神的自由に適用できても、営業の自由に対して違憲性は問えないのである。これは「二重の基準論」というものだ。つまり、営業の自由や経済的自由権において、裁判所が違憲と判示することはないといえる。裁判所は、国家財政、社会経済、国民生活などに関しては、はじめから立法府の政策的、技術的判断に委ねることになっているからだ。営業の自由は憲法で保障されながら、行政によって営業の自由が侵害されても、それは違憲にならないということになる。
ちなみに、コロナ禍で「行政のお願い」によって飲食店などが営業の自粛を余儀なくされているが、仮に営業の自由を盾にとって憲法違反だと騒いだところで、裁判所は取り合ってくれない。このため、賢い法律家は口をつぐんでいるのだ。話が脱線したが、価格構造メソッドを使いこなすためには、法律を知ることが重要である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.