設備自体を変えるのではなく、運用や作動をその建物に合わせるだけでも、エネルギー削減効果を得られることが多く見受けられます。
設備施工時に入念な試運転(無負荷)調整を行っても、その後の運用条件(実負荷)は変化するので、運用段階でのチェックやチューニングを怠ると、無駄が生じていることに気付かず、多くのエネルギーが損失してしまう危険性があるからです。
合理的にチェック・改善を進める作業は、BEMSデータを使って省エネ作動分析を実施することから始まります。エネルギー消費推移を種類別や系統別で全般的に確認することや、主要設備効率を基準値と比較評価するなどの基本的な項目に加えて、最適化チューニングが期待できる部分については更に詳細なデータ分析を行うと良いでしょう。
多様なプレーヤーが、それぞれの得意分野でコンサルやサポートサービスを提供していますので、適度に専門家を交えて取り組むこともお勧めします。
BEMSデータを活用したエネルギーマネジメント活動とは、上記の運用改善に代表されるように省CO2=環境対策に直結することですが、「E:環境」に加え「S:社会」や「G:ガバナンス」にも結び付いています。
地球温暖化防止などに関する制度が強化されるにつれ、建物所有者、管理者、入居者などの社会的責任が増し、エネルギー使用量が多い大規模建物や多くの建物を所有または利用している特定事業者には、省エネ法や自治体条例などで相応のエネルギー管理が義務付けられています。
推進体制をつくり、合理的なエネルギー使用の取り組みを実践し、達成状況を報告するという一連の義務を順守するためには、BEMSデータを含めた情報活用が欠かせません。環境対策を実施する行動が大切なのはもちろんですが、取り組み内容に関する具体的なデータ開示まで求められるようになったということです。
建物経営や施設運営のガバナンスを整えるという観点からも、エネルギーマネジメントの充実は大切です。大規模で多目的な複合施設が数多く開発されるようになり、「誰がどの範囲のエネルギー使用に責任を持ち、費用を負担するのか」「建物内のエネルギー課金ルールや単価設定は適正なのか」といった課題ついては、利害関係者も増え複雑化する一方です。
建物運営費の中で光熱水費の占める割合は大きく、REITなどによる不動産流動化やエネルギー自由化、電力改革などで建物経営環境が変化する中、コスト管理を含めたBEMSデータが担う範囲はますます拡張が進むでしょう。
そのためのエネルギーマネジメントの基本は、建物内のエネルギー使用実態を掌握することであり、建物の受入部だけでなく、建物内のエネルギーフローに従い、各用途エリアまでの使用実態管理を充実させることだと結論付けることができます。
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