奥村組は、AIを用いた下水道管渠の損傷検出システムを開発した。国内の下水道管渠は、耐用年数が50年を経過するものが今後増加していくことに伴い、老朽化対策の要否を判断する詳細調査に対するニーズが高まっていくことが確実視されている。奥村組の開発した新システムは、詳細調査の一部をAIにより自動化することで、調査・診断を行う熟練技術者不足などの課題を解決すると期待されている。
奥村組とジャストは、下水道管渠(かんきょ)の維持管理で、管渠内部の調査業務を効率化し、損傷判定品質の確保を実現する「AIを用いた下水道管渠の損傷検出システム」を開発した。
下水道管渠の詳細調査は、損傷判定結果を映像に付記して録画する「従来型テレビカメラ調査」と、広角レンズのテレビカメラ機器で管渠内部を撮影し、事務所で録画映像による損傷判定を行う「広角テレビカメラ調査」の2つの方式がある。
このうち、広角テレビカメラ調査は、側面や天井を撮影する際、カメラを上下左右に操作する必要がなく、管渠内部をテレビカメラが自走しながらスムーズに撮影し、損傷判定などの作業を天候の影響を受けず事務所内で行えるという利点がある。
今回開発したシステムは、広角テレビカメラ調査にAIを用いて、熟練技術者の判定結果を再現するもので、調査業務のさらなる効率化に加え、損傷判定の品質確保が実現する。
適用の対象は、管径φ200〜800ミリの鉄筋コンクリート管と陶管。広角テレビカメラで撮影した動画を既存ソフトを使い、展開画像への変換と画像分割を行った上で専用システムに入力する。取り込んだ画像はAIで解析して、管の構造情報(取付管の位置、管のジョイント位置)と損傷情報(損傷の位置、種類、傷の程度)を1スパン(約30メートル)あたり15秒程度で取得する。AIが損傷箇所を抽出するため、技術者がこれまでのように全延長を確認する必要がなくなり、作業量が軽減される。
また、解析結果としてシステムから自動出力される損傷情報を付記した展開画像や管構造情報、損傷情報のリストを確認することだけに注力できるため、その結果、判定精度の向上につながる。出力された解析結果は、調査業務報告書の資料としても利用可能なので、報告書作成の手間も削減される。
奥村組では今後、新システムを実際の調査業務に適用し、現行の調査方法との業務効率の比較や再現性の検証を行う。さらに、ベースとなる教師データの収集と、AIの再学習による検出精度の向上、管の種類や管径などの対象範囲も拡大させていく。
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