立命館が研究を進める“非破壊試験”を駆使したインフラ点検の早期評価技術インフラメンテナンス(3/3 ページ)

» 2018年11月01日 10時00分 公開
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広島土砂災害で被害が無かったポーラスコンクリートの特性

川崎 続いて、自然電位法などの電気化学的手法とAEを用いた「ハイブリッドスクリーニング」に関する研究を紹介する。これは、塩害による鉄筋コンクリート中の鉄筋腐食を早期に評価することを目的としている。電気化学的手法とAEの長短所を挙げると、前者は簡便に腐食進展の兆候を評価できるものの、その測定値のバラつきが大きい。後者はセンサーを設置するだけで連続モニタリングが可能であるとはいえ、高価かつ技術を要するといった点になる。

 そもそもの鉄筋腐食のメカニズムについて触れたい。コンクリートは11〜12の高いpHを持っており、その中に鉄筋が入ると不導態被膜という一種のバリアを形成し、腐食から身を守っている構造。そこに塩化物イオンが侵入すると、そのバリアが消失してしまい、鉄筋の中に水と酸素が入り込み、腐食生成物が生じる。これが膨張すればヒビ割れが起き、腐食生成物とヒビ割れが貫通することで、コンクリート表面に錆び汁が出てくる。

AEを活用した鉄筋腐食評価

川崎 コンクリート表面に顕在化する前に、評価することを目指して研究を進めている。自然電位法では電位が-350mV(ミリボルト)を下回れば90%以上の確率で腐食があると分かるとはいえ、腐食を評価できるだけの電位変動は腐食開始以降のものが多い。そこで鉄筋腐食の開始段階を評価すべく、連続的にセンサー検知するAEの特性を利用し、鉄筋が腐食してきたという早い段階をAE現象の推移で確認しようと試みた。

 その結果、コンクリート内部で多量のAEが位置評定されたのに加え、波形を特徴づけるパラメータを使って解析すると、鉄筋腐食の開始時期には長い波形が生まれ、ヒビ割れ時にはパルツのようなものが出てくる。こういった特徴を数値化することで、いつの段階が腐食したのか、ヒビ割れが発生したのかを判断可能になる。

AEパラメータによる解析

川崎 次に、ポーラスコンクリートの非破壊試験について述べたい。ポーラスコンクリートは、一般的なコンクリートの中から細骨材を除き、極端に空隙を増やしたというのが特徴である。

 2013年の広島土砂災害時には、ポーラスコンクリートで法面補強された箇所は被害がなかったと報告されている。それは、土砂の中に含水している水を外に放出することができる特性による。このように、透水性や保水性に優れるエコマテリアルであるポーラスコンクリートだが、その空隙率によって強度が大きく変動してしまう側面もある。

 この推定に、非破壊試験法のガンマ線を使った「RI(ラジオアイソトープ)法」の活用に関して研究を進めている。RI法は、そもそも土の密度を評価するものだが、それをポーラスコンクリートに応用することで、破壊試験と変わらない精度で空隙率を割り出すことに成功した。

RI法による非破壊試験の概要
その成果

川崎 しっかりとインフラを安心・安全に利用するには、適切な調査をしなければいけない。その調査の手段の一例が、本日紹介した非破壊試験である。私たちの研究では、モニタリングに焦点を絞り、早期評価につなげていくことを目指している。近年では、ドローンやAIで解析する技術が急速に進んでいるとはいえ、最終的には人が“判断”をして“診断”をしなければならない。その判断や診断のための知見を積み重ねるとともに、適切に評価できる人材を着実に増やしていくことが重要であると考えている。

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